【第三部】 開始 五章 絡む線と浮かぶ点 3
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原沢は薬物依存と重度肝機能障害が認められ、医療少年院に収容された。
恭介の指示は、白井から白井の父へと伝えられ、医療少年院内での治療方針に組み込まれた。
MRIの画像は、原沢の海馬萎縮を映し出し、図らずも恭介の仮説が実証されることとなる。
白井の父、白井一樹は、恭介が提示した漢方薬の処方に舌を巻いていた。
釣藤鈎、陳皮、半夏、麦門冬、茯苓、人参、防風、菊花、甘草、生姜、石膏など、オーソドックスな生薬配合でありながら、原沢の症状緩和にかなり有効だった。
「ねえねえヒロ君。君の友だちって、厚労省に入って、パパの部下にならないかな」
原沢の薬物治療が進み始めた頃、白井一樹は息子にこんなことを言っていた。
「パパさあ、漢方処方とか、苦手なんだよね」
「なるわきゃないだろ!」
マトリに認められた恭介は、いくつかの生薬を自分にも与え、多少の苦痛を伴いながら、数日かけて、薬物を無効化した。
自身を解毒していく過程で、恭介は原沢の意識にコンタクトを試みた。
アスリートとしての才能に恵まれていた彼が、なぜ昔から侑太とつるんでいたのか。
そして、違法薬物に依存するようになったのか。
あまり原沢との接点を持ち得なかった恭介には、理解できない点が多かったのだ。
原沢の意識に繫がる。
サイケデリックな色彩のカーテンをいくつも越える。
すると、隅で蹲る少年の姿が見えた。
子どもの頃の原沢だった。
原沢は泣いていた。
「にいちゃん、なんでだよ。なんで俺なんかをかばったんだ!」
原沢の兄が、原沢をかばって車に轢かれたということを、この時恭介は、初めて知った。




