【第三部】 開始 五章 絡む線と浮かぶ点 2
2
翻ってここ秩父山中。
原沢が捕まったと聞き、恭介の顔つきが変わった。
直ぐに白井に電話する。
「ヒロ? うん、聞いた。それで、ヒロの親父さんに伝えて欲しい」
恭介は、捕まった原沢に、MIRの検査を行うべきだと言った。さらに、今後、原沢に離脱症状すなわち、薬が切れた時の禁断症状が出た場合、いくつかの漢方薬を処方して欲しいと電話で語った。
「詳しくはメールで送る」
次に恭介は、瑠香に電話し、矢継ぎ早に指示をだす。
曰く、原沢に弁護士がついているかどうか調べ、ついていない場合は、瑠香の知り合いで少年事件に長けている弁護士を、斡旋して欲しいと言った。
「ああ、費用は俺が持つ」
この一連の恭介の対応を、悠斗は黙って見つめた。
さっきまで、ガキみたいなことを言っていた恭介だったが、下手な大人よりずっと、的確に動いている。
これが恭介の本来の能力。
牧江の時も、戸賀崎の時も、ああ、俺の時だってそうだった。
あちこちへ連絡して一息ついた恭介に悠斗は聞いた。
「何か、俺が出来ることはあるか?」
「ああ、お湯を沸かしてくれないか。これから俺も、オーキッドを体から追い出す」
侑太のもとにも、原沢逮捕の知らせは届いていた。
牧江や戸賀崎とは違う、まとわりつく嫌な感触がある。
一人、またひとり、周囲の仲間が消えていく。
なかでも原沢とは別格のつながりがあった。
原沢とは、小学生の頃から、一緒にやんちゃなことをした。
女を抱いたのも同じ時だ。
周りの顰蹙は、侑太も原沢も力でねじ伏せた。
そもそも、二人して、藤影恭介を嫌っていた。
理屈ではない、何か根源的な嫌悪感。
だから、恭介を海に沈めた。
本気でこの世からあいつを消したいと思った。
牧江や戸賀崎には、本音は言っていない。
ただ、原沢とは同じ意識だった。
恭介をかばっていた小沼悠斗に対しても、侑太と原沢は同じ感情を抱いていた。
中学時代、侑太と原沢は、二人してよく悠斗をいたぶった。
反抗できない悠斗を見るのが、快楽だった。
そんな原沢が捕まった。
側近がいなくなった。
なぜだ。
これからどうする。
仙波から電話があった。
「彼は知りすぎています。どうしますか?」
侑太は逡巡する。ただし一秒ほど。
「始末するしか、ないな」
かしこまりました。
そう仙波は言った。




