【第三部】 開始 四章 天翔る日 6
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「なんで、俺の名前を?」
悠斗はスズメに問う。
コロコロとスズメは笑った。
小鳥の囀りのようだ。
「恭介さんから聞いてますし。 それにあなたには一度、お会いしてますよ」
スズメはくるりと宙返りをする。
そこに現れたのは、かつてオーストラリアで悠斗が邂逅した、謎の女性だった。
悠斗にプレシャス・オパールを託した人。
「え、あっ! あなたは!」
「地上で人間と交わることは、ごく短時間しかできないのですよ」
コロコロと鳴きながら、スズメはまた羽ばたいていった。
「キヨスケよ」
悠斗の前に、大きなうさぎが現れた。
二足歩行し、喋っている。
「久しぶりです、リン」
リンは悠斗を見据えて、偉そうに語った。
「お前がハルトか。そうかそうか」
リンは目を細めた。
その姿は、悠斗が通っていた幼稚園で飼育されていた、ジャパニーズホワイト種、つまり白いウサギによく似ていた。
「キヨスケは思春期の始まりから、ここで我らとすごした。それは目出度いことである」
だが
あまりにも俗な生活と離れたため、身体は成長したのだが、情緒が小学生時代と、あまり変わっていない。
誰かの面影に胸が乱されるとか、迸る激情に身を任せるといった、性愛の感情が希薄なのだという。
「ハルトよ。お前は中学時代、それなりにやんちゃな男子であったろう」
確かに。
「よって、キヨスケの足りない部分を補ってやってくれ」
恭介はリンの言葉に顔を赤くする。
「それと、キヨスケ」
リンは恭介に向かって言った。
「紅い石をまだ持っているであろう」
「はい」
「あの石を削り、額に擦りこんでおくが良い」
「はあ…なにゆえでしょう」
「真実を見抜く力となるであろう」
真実を見極められれば、薬の影響など、取るに足らぬものである。
その言葉を投げて、リンはすうっと消えていった。




