【第三部】 開始 四章 天翔る日 2
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悠斗は、当然のごとく反対した。
「お前に、もしものことがあったら、俺どうすんだよ!」
せめて、オーキッドの成分結果が出てからにしてくれと言う悠斗の顔は、昔の心配性のままだった。
では、オーキッド成分の分析は、どうなったのだろうか。
「ねえ、例の薬の成分て、もう分かったの?」
白井はある日、父に尋ねた。
白井の高校進学と同時に、地元を離れ、白井は父と二人暮らしを始めた。
月イチで、白井の母がやって来る。
「国家機密につき、回答できません」
そう答えた父の首を絞めようかと、白井は一瞬思った。
「そんなことより、ヒロくーん」
父は猫なで声で白井にすり寄る。
「あん時、君と一緒に来た女性いたでしょ」
「ああ、畑野さん」
「美人でキュートで、パパのど真ん中どストライクなんだけど」
知るか!
「SNSのID、交換して良いかな」
「おかんに言いつけるぞ!」
実は既に、オーキッドの分析結果は出ていた。
メイン成分は、エフェドリン、カフェイン、アスピリン。
有名なやせ薬と同様の成分だった。
「あれ、でも、この組み合わせって、国内では不可じゃなかったっけ?」
結果を聞いた白井一樹は、同じ省内の検査官に質問した。
「諸外国でも禁止になってますよ」
検査官は、もう一点、気になる成分を見つけたと言った。
「え、何なに? ヒ素とかトリカブトとか?」
「それじゃ死人が出ますね。 まあ、緩慢な脳破壊を、起こすかもしれないですけど」
白井一樹の視線が動く。
「化学式はC6H15NO4」
「カイニン酸か!」
カイニン酸。
動物に寄生する回虫を駆除する生薬、海人草の主成分である。
寄生虫を興奮させたのち、麻痺させることが出来る薬効を持つ。
ただし
脳の中枢に損傷を与える、神経毒としての側面もある。
「それって、やばくね?」
「だから、あなたに報告しているのですが、白井さん」
その成分の詳細を、恭介はまだ知らされていなかったが、牧江や戸賀崎と対峙して得た仮説があった。
彼らは依存性の高い薬物を与えられ、結果脳の一部に損傷を受けた。損傷した部位に、何かが棲みついたのではないだろうかと。
その脳の部位とは
海馬。




