【第一部】絶望 一章 僕はまだ知らなかった 7
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体中の水分を絞り出したかのような、恭介の号泣が落ち着いたとき、誰かが恭介の背中を、とんとんと叩いた。
泣き濡れた顔を向けると、恭介の半分くらいの大きさの、耳の長い生き物がいた。
丸い鼻の先を囲むように、ひげが横に伸びている。
うさぎに似ていると恭介は思った。
「ようやく吐き出せたな」
うさぎみたいなそいつは、嬉しそうに恭介に語りかける。
男の声だった。
「よお、リンも来たのか」
メイロンが恭介の隣に腰を下ろす。
スズメは恭介の頭上の枝にとまっている。
「キヨスケよ」
「恭介です…」
リンと呼ばれたうさぎの様な生き物は、構わずに続ける。
「お前はどういうわけか、本来、地上の人間が来ることのない、この地に来た。来ちゃったからにはしょうがない。この世界で生きるための術を学ばにゃならん」
リンは偉そうに胸を張る。
「お前はまだ幼い。だからまず、体力、気力、知力を伸ばせ」
「…どうすれば、伸ばせますか?」
メイロンが八重歯を見せて笑う。
「まずは体作りだな。俺が手本を見せるから、一緒にやろう」
ストンと枝からおりたスズメがさえずる。
「気力は生命力。生命力の源は食べること。食べ物は自分で調達するのです」
そして、リンが、やはり偉そうに言う。
「ここには、地球創生以来の叡智が集まっているからな。好きなだけ学問に励めよ」
「よし!」
メイロンが立ち上がる。
「食材調達! 釣りにいくぞ、かげっち!」
つられて恭介も立ち上がる。涙は乾いていた。メイロンのあとを追って、恭介は走り始めた。




