【第三部】 開始 二章 後悔と改心と決意 7
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三個目のハンバーガーを頬張る白井に、恭介は伏し目がちに話かけた。
「白井、こんなことに巻き込んで、本当に済まない」
白井は慌ててコーラを飲む。
「今更何言ってんの」
ちょっとビックリはしてるけどね、と白井は笑った。
島内は、牧江から預かった薬を取り出す。
「一度、この薬の成分分析をしてみたいね」
瑠香も同意する。
「化学分析を扱っている会社に依頼してみます?」
島内は考えながら答える。
「もし万が一、違法薬物成分でも抽出された場合、面倒かな…」
島内にとって、警察の取り調べは苦い記憶である。
「あの、俺の親父に聞いてみましょうか?」
白井が島内に言った。
「俺の親父、薬剤師の資格持ってて、あ、公務員なんすけど。クスリがどうたらこうたら、たまに喋ってます」
「白井くん、だよね。君の公務員のお父さんの勤め先って、まさか警察じゃないよね」
「あ、ちがくて、なんだっけ、そうそう、こーろーしょう?」
「厚労省の白井! まさか、マトリの白井さん!?」
島内の上ずった声に、白井も驚いた。
驚くと同時に思った。
マトリって、何?
同日夜。
侑太からゴーサインを得た戸賀崎は、松本をいかに苦しめるかだけを考えながら、襲撃計画を練っていた。
侑太からの情報によれば、松本の住所は隣県の住宅街。
深夜には人通りが少なくなる場所である。
そこで原沢の手駒を四、五人そろえ、拉致するつもりでいた。
戸賀崎は、選んだ薬物を、シャーレの中の寄生性線虫に垂らす。
もがくように動き、すぐに固まっていく姿を、戸賀崎はうっとりと眺めた。
あの松本も、これと同じように、動かなくさせてやる!
戸賀崎の夢想は、自室のドアを、激しくノックする音で遮られた。
「翼! 居るんだな、ドアを開けろ!」
戸賀崎の父だった。
怒気を含んだ声に、戸賀崎はびくびくしながらドアを開ける。
開けたとたんに、頬を張られた。
父が持ってきたらしい紙の束が、床に散っていた。
「これはどういうことなんだ!」
散った紙束は、週刊誌のゲラ刷り。
戸賀崎は頬をさすりながら、紙を集めた。
その見出しに踊る、禍々しい言葉の羅列。
「天才少年Tの狂気」
「血塗られた実験室」
「パワハラモラハラが横行する薬品会社のラボ」
一部はアルファベットや仮名で表記されていたものの、戸賀崎と、戸賀崎の父の会社内での事項だと、すぐにわかる内容であった。
「お前は一体、何をしていたんだ!」
父の怒りをあびると、それこそ固まって動けなくなってしまう戸賀崎は、無言のまま、立ち尽くしていた。




