【第三部】 開始 二章 後悔と改心と決意 5
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恭介は悠斗に先導させて、牧江らを非常口から地上へと向かわせた。
そのまま自分は非常階段を駆け上り、ビルの屋上へと向かう。
粘りつく視線は、上空から感じていた。
恭介が屋上に上がると、夕闇を背景に一人の男が立っていた。
ただし、それは実態ではなく、照らし出されたホログラムであった。
屋上のさらに上の空、ドローンが飛翔し、立体像を作り上げていた。
「やあ、文化祭の演劇は、なかなかの茶番だったよ」
立体像が喋る。
聞いたことのある声。
見覚えのある姿。
「今までは子どもに任せていたが、こちらの計画の邪魔をされ続けるのも面倒でね」
恭介に一度は絶望を与えた男。
「まあ、わざわざ姿をさらすことなく、裏切り者を処分してもよかったが、プロジェクションマッピングで面白いものを見せてくれたお礼だ」
恭介は叫ぶ。
「仙波―――!」
ホログラムは消え、同時にドローンからはビー玉ほどの大きさの物体が吐き出される。
その物体は、屋上のコンクリート面にぶつかると簡単に割れ、中から飛び出す液体は、白煙をあげ、次々とコンクリを溶かす。
強酸性の液体による攻撃。
アシド・アタック!
銃火器系の攻撃よりも、ある種厄介な方法。
恭介はすぐさま大量の水を放出し、ドローン全体を包む。
出口を失った強酸性物質は、ドローン本体を簡単に融解させた。
地上では、牧江の乗ったタクシーを、発車させまいと立ちふさがる男二名と、悠斗が掴みあっていた。
悠斗の突きや蹴りを受けても、ひるまない男たち。
牧江をタクシーに乗せ、降りた白井は、はらはらしながら悠斗を見守る。手助けしたくても、白井には何もできない。
ふと、白井は気付く。
男たちの腰から下半身にかけて、黒い縄のようなものが伸びていることに。
不意に思い出す。
牧江が、気持ち悪い感じだったころ、彼女の首には黒い鎖が見えていた。
だが、プロジェクションマッピングで聖獣が現れたあとに、その鎖は消えていたことを。
白井の手元には、綿貫から預かった、衣装の一部があった。
――ばあちゃん、力を貸してくれ!
白井はタクシーの運転手に合図し、急発進させた。
あわてて、タクシー車両に飛びつこうとする男の尻を、衣装の布を棒状にして、思い切り叩いた。
叩かれた男は、足元から崩れる。
その姿に気を取られたもう一人の男の顔面に、悠斗の正拳突きが綺麗に入った。
「ナイス、白井!」
悠斗が突き出す拳に、照れながら白井も拳を合わせた。
無事にタクシーは走り去った。
その時、屋上から、爆発音が響き、白煙が上がった。
悠斗は駆け出す。
白井も続く。
屋上から飛び降りた人影は、非常階段のらせん状の手すりに掴まった。
そのまま勢いをころし、体を回転させながら、恭介は地上に降りた。




