【第三部】 開始 二章 後悔と改心と決意 4
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島内の元の事務所の近くにある、ビルの二階の静かな佇まいの喫茶店で、島内と秘書役の瑠香が、牧江に聞き取りを行った。
牧江の横には、兄、継直が寄り添っていた。
恭介と悠斗は、四人が向かい合った座席の後ろにいる。
窓側の席なので、街路が見下ろせる位置である。
牧江が「サプライズ」と言った瞬間、恭介は口に含んだ紅茶を吹き出しそうになった。
サプライズで、俺は死にかけたのか、と。
軽く咳き込む恭介の背中を、悠斗がさすった。
「あたしは、ゆうくん、侑太君からサプライズって聞いたから、すぐに恭介くんが現れると思ってた。…けど」
まさかそのまま行方不明になるなんて、牧江は思わなかったのだ。
だから、泣いた。心底後悔して。
サプライズなんて、しなければ良かったと。
「もしかしたら、あたし以外の男子は、マジだったのかも…」
島内が、恭介に掛けられていた保険金の話をふると、牧江は知らなかった。ただ、事故のあと、急に侑太の金遣いが荒くなったことは覚えていた。
「では牧江さん、私を呼び出したのは誰だったのでしょう。男性の声だったのですが」
島内が問う。
「侑太くん? かな。あたしは彼から、指定されたホテルの部屋に行って、写真撮るように言われたの」
島内は考えながら、最後にもう一つ質問をする。
「女子高生の間で流行っている、痩せるサプリ、あれって効果ありますか?」
牧江は首を横に振りながら
「あたし、実は飲んだことないの。藤影製薬が出してるサプリ、ビタミン剤とカフェインだって聞いてたし、飲んでも飲まなくても同じかなって。あたしの動画で宣伝してたけど。でも、本当に痩せるって言われてるのは、それじゃないと思う」
通称、オーキッド。
食欲がなくなり、激痩せすると言われているサプリメント。
それだけに高い。
市中に出回っている価格は、一瓶三万円と噂されている。
「あ、そうだ、これ」
牧江が、ビニール袋を取り出した。
「お試し用のオーキッド、一回分貰ったの。よかったらあげます」
島内は懐にしまった。
眼下の路上に、黒いワゴン車が停まった。
ピリピリと伝わってくる気配がある。
悠斗の自宅に、瑠香と行った時と同じような気配だ。
恭介は立ち上がり、牧江継直に声をかける。
「牧江さん、出発の準備はできていますか?」
継直は頷く。
「では、非常階段から降りてください。タクシーは呼んであります。そのまま羽田に」
口早に恭介は言った。
タクシーには白井が待機している。
そして恭介は、牧江に正面から向き合った。
「サプライズだったから、戻って来ることできたよ」
牧江は、あっと叫び、恭介の手を握り、「ごめん!」と言った。




