【第三部】 開始 二章 後悔と改心と決意 3
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会場の熱気はとどまることなく、スタンディングオベーションのまま、劇は終幕した。
企画に携わったメンバーは、互いにハイタッチしながら撤収作業に入る。
恭介と、真の陽玉を演じた綿貫は、牧江とその兄の居場所へ向かった。
牧江は涙でメークがすっかり取れ、いつもより幼い顔をしていた。
「君の企画を改変して済まない」
恭介は牧江に詫びた。
牧江は黙って首を横に振った。
綿貫が口を開いた。
「ねえ、設楽って覚えてる?」
牧江は一瞬目を大きくし、首を縦に振る。
「私、あなたに謝ってほしかった。設楽、今も意識が戻らないから」
綿貫の目から、涙がはらり、落ちた。
「でも、今日、この衣装でセリフ喋って、わかった」
綿貫は牧江の手を取る。
「誰かを守りたいとか、助けたいとか言う人は、自分が守られたい人なんだって」
牧江の瞳が、再び潤んだ。
「あなたも、きっと誰かに守って欲しかった人なんだね…」
許せないと憤っていた綿貫だったが、演じるうちに、牧江の心の奥の、抱えていたものが伝わってきた。
設楽の病院に、一緒に行って欲しいと綿貫が言うと、牧江は深く頷いた。
白井は恭介の後ろから、綿貫と牧江を見つめていたが、牧江の首に巻き付いていた、ヘビのような黒い塊が消えているのに気付いた。
なんとなく
プロジェクションマッピングで会場に飛び出した鳳凰と麒麟が、鎖の一部を断ち切ったような気がした。
この後、牧江は兄に付き添われ、島内に謝罪する。
さらに、五年前の水難事故について、牧江が知っていることを語りだした。
その内容には、当事者の恭介も少しばかり驚いた。
「サプライズだって言われてたの。藤影恭介君をどっきりで海に落としたあと、助けあげて陸に連れていく、帰国前のサプライズだって」
サプライズと言ったのは、誰だ。




