【第三部】 開始 二章 後悔と改心と決意 2
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遡ること一日前。
来場者が帰ったあとに、恭介らは翌日向けての会場準備を行っていた。
悠斗は会場の隅で、誰かと通話しているようだった。
大きな立体物を運び終え、手持無沙汰になった白井は、勇気を出して通話を終えた悠斗に話しかけた。
「ねえ、こ、小沼くん」
悠斗はちらりと白井を見て
「悠斗でいいよ」
と言った。
「あ、じゃあ悠斗、くん。一度聞きたかったんだけど、松本とは、昔から知り合いだったの?」
プロジェクションマッピングを行うにあたり、映像の編集とマッピングを作動させるプログラム作成は、恭介が一人で取り組んだ。
「お前、昔から、プログラミング得意だったな」
悠斗の何気ない一言を、白井は聞き逃さなかった。
ところで、入学当初から、白井は悠斗の顔を知っていた。
入学式の次の日だったろうか、帰りの電車で、同じ高等部の女子生徒が、他校の男子に絡まれていた。
白井は腕力に、まったくもって自信がなく、女子生徒を助けたいと思うものの、何も介入できずにいた。白井の周囲にいた狩野の生徒たちも、遠巻きに見つめるだけで、多分同じ思いをしていただろう。
そこに一人の男子が割ってはいり、絡んでいた他校男子の手首を強く握った。
介入した男子が、一言二言囁くと、絡んでいた他校の連中は、すごすごと次の駅で降りていった。
助けられた女子生徒が、お礼を言おうとすると、その男子は片手でそれを制し、別の車両に移っていった。
カッケー!
でも、コエエエ!
その後、車内はしばらく、ざわざわしていた。
「あいつ、小沼悠斗だろ?」
「ああ、生徒会の狂犬だ」
白井は思った。
彼、小沼悠斗は、狂犬と呼ばれるくらい強いのに。
男からみても、格好良いのに。
なんで彼の背中は、まるで夕暮れみたいな色をしているのだろう。
「昔かあ、ううん、そうだな。その辺のことは、きょ…松本から直接聞くといい」
きっと、いつか話してくれるさ、と悠斗は付け加えた。
現在の悠斗は、春先に見た昏さがない。多分、今の彼が本来の彼なんだろう。
「わかった。ごめん、変なこと聞いちゃって」
悠斗は片手をあげ、軽く横に振る。
「ああ、白井さあ」
白井はびくっとする。
「俺のこと、『くん』抜きで呼べよ」
白い歯を見せて笑う悠斗は、やっぱりカッコいいと白井は思った。
白井と話す前に、悠斗がスマホで話していた相手は、フリーライターの島内である。
島内は、時間をかけて、淫行の罪を仕掛けたメンバーを特定していた。
特に中心人物の牧江のことは、家族構成まで調べ上げ、義理の兄にあたる人物がアメリカにいることまで突き止めていた。
そして単身、アメリカに飛び、ある伝手を頼りに、牧江の兄と直接会うことが出来たのである。
島内は、成田で牧江の兄と合流したことを、悠斗に伝えた。




