【第三部】 開始 二章 後悔と改心と決意 1
二章 後悔と改心と決意
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狩野学園高等部の文化祭二日目の目玉は、牧江プロデュースによる舞台だった。
会場には「悲恋の恋人同士だった二人は魔人によって引き裂かれた後、転生して、私は鳳凰の力、彼は麒麟の力を得たので、今度こそ闇の魔族を倒し、ハッピーエンドを迎えます!」という看板が大きく掲げられ、同作品のファンや、コスプレイヤーたちが大挙して入場する。
会場には、プロジェクションマッピングを効果的に映し出せるような、いくつかの立体モニュメントも配置された。
幕が上がると、美術部作成の書割を背景に、主役の陽玉に扮した牧江が登場する。さすがに人気のコスプレイヤー、アニメのキャラクターさながらのコスチュームと表情をまとっている。
大きな歓声と拍手が上がる。
魔王がそのテーマ音楽とともに登場し、陽玉に手を伸ばしたところで舞台は暗転。
その瞬間、マッピングが作動し、会場中に鳳凰と麒麟が飛び交った。
高校レベルを凌駕する演出である。
そして千年後、生まれ変わった陽玉役の牧江が再度舞台に登場し、会場中に笑顔を振りまいて幕は降りる。
はずであった。
舞台のそでに引っ込んだ牧江が、衣装の着替えをしようとした時、会場がざわめき、悲鳴や罵声が聞こえた。
会場にマッピングされたのは、聖獣だけではなかった。
素顔の牧江が吐く醜い言葉の数々が、テロップとともに再生され始めた。
「ねえ、デブは治せても、ブスは治らないよ」
「あたしは可愛いから、あたしが正しいの」
「痩せたいなら、水だけ飲んで生活しなよ。あたし、それで痩せたよ」
「お金ないなら、〇〇して稼げばいいじゃん。JKなんだから」
何?
何が起こっているの?
何が起こっているのか、正確に分からぬまま、牧江がマッピングの作動を止めようとすると、背後から誰かに動きを止められた。
会場から
「こんなの陽玉じゃない!」
「俺の陽玉を返せ!」
いくつもの声が重なる。
すると暗転したままだった舞台にスポットライトが当たった。
舞台中央に、すっと現れた女性は、陽玉そのものの容貌をしていた。胸には大きな真紅の宝石が輝いていた。
「魔王によって創られた、偽の陽玉は消え去りました!」
凛とした声が、会場を一瞬にして支配した。
陽玉の衣装はライトで一層輝き、その胸元からも鳳凰が飛び立った。
「私は魔王によってとらえられた大切な人を、これから救うために旅立ちます!」
うおおおという叫び声。
陽玉の名のリフレイン。
会場は熱波で包まれた。
「離してよ!」
牧江は背後から絡んだ腕をほどこうともがいた。
魔王役のコスチュームを着ている男。牧江の仲間の一人だった。
牧江はそう思っていた。
「今度は離さない」
その声を聞くと、牧江の力は抜けた。
おそるおそる振り返る。
男は魔王の面をはずした。
「嘘…」
牧江は自分から男に抱きつく。
「なんで、今…バカ!」
牧江は泣き崩れる。その頭を男は何度も撫でた。
泣き続ける牧江を舞台裏から見つめた恭介は、牧江のことを初めて可愛いと感じた。




