間奏3 牧江里菜の回想
願い事は、かなうって信じてる。
いままで、そうだったから。
こんなママは嫌い。いらない!
そう思ったら、ママはいなくなった。
帰ってこなくなった。
あたしは、何日も何日も、お水だけ飲んで過ごした。
保育園の先生が、あたしを見つけてくれなかったら、もしかしたら、死んでたかもね。
それからママは、ちょっとだけ優しいママになった。
だから、ママと二人の生活に戻った。
保育園で何度も読んだ、シンデレラのお話。
きっとあたしもシンデレラみたいに、いつかかぼちゃの馬車が迎えに来てくれる!
王子様と一緒になれる!
そう願ってた。
そしたらある日、ピカピカの車がやってきて、ママと一緒にお城みたいなお家に連れていってくれた。
「新しいパパよ」
ママがとびきりの笑顔でパパを紹介する。
パパは、あたしを抱き上げてくれた。
パパのうちには、王子様みたいなお兄ちゃんがいた。
お兄ちゃんは、いつもお部屋でお勉強してた。
でも、お兄ちゃんに遊んでほしくて、よくお兄ちゃんのお部屋にいった。
そのたびに、お兄ちゃんは飴とかキャンディをくれた。
ある時、目を閉じてと言われたので言うとおりにしたら、お兄ちゃんは自分で舐めていたキャンディを、口移しであたしにくれた。
あたしはそれを一口舐めたあと、お兄ちゃんに返した。
お兄ちゃんと同じように、口移しで返した。
あたしが幼稚園に通っていた頃。
お兄ちゃんは、あたしより十歳くらい年上だった。
それからあたしは、お兄ちゃんの部屋で暮らした。
寝る時も、お風呂に入る時も、一緒だった。
だって、お兄ちゃんは、王子様だと思ってたから。
言うことは素直に聞いた。
ある日、パパが部屋にやってきて、お兄ちゃんを殴った。
お兄ちゃんは、お城を追い出されて、遠い国に行っちゃった。
あたしが小学校に入る頃のこと。
あたしは寂しくて悲しくて、お兄ちゃんの代わりを見つけようとした。
最初に王子様だと思ったコは、頼りなくて弱かった。
あたしがお兄ちゃんにしてたことを、してあげようとすると、いつも逃げてしまう。
だから、クラスで一番強かった男子を、お兄ちゃんの代わりにした。
そのコは逃げるどころか、もっともっととあたしに近寄った。
そのコは今も横にいる。
だけどそのコと、キャンディを舐め合うことはない。
今も願ってる
いつか、また、お兄ちゃんと一緒に暮らせる日がくることを。




