【第三部】 開始 一章 最初の門 6
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狩野学園高等部の文化祭は土日で行われ、土曜の正午からは一般公開が始まる。
在校生の保護者や親族をはじめ、他校の生徒や近隣の学生などで賑わう、大掛かりな文化祭である。
来場者は、まず校門を彩るアーチをくぐる。
すると、在校生らが来場者に、惜しげもなくフラワーシャワーを降りかける。しかも、用意された花びらは、すべてバラや蘭の生花である。
土曜日の午後、白井が一人の女性を連れて、明日の準備に追われる、恭介や悠斗のもとにやってきた。
白井の祖母である。
白井が「拝み屋のばあちゃん」とよく言っているので、恭介は、ぐるぐると首に数珠を巻いた、白髪の老婆を勝手にイメージしていた。
ところが白井の祖母は、落ち着いた雰囲気の大人の女性であった。白井の母と言っても通るくらいのしなやかな外見だった。
「孫がお世話になっております、柏内でございます」
白井の祖母、柏内は、深々とお辞儀をし、こちらこそ、と頭を下げる恭介と悠斗を見つめた。
「ヒロ、良きお友達に恵まれたね」
白井は祖母の言葉に照れる。
「柏内さん、いただいたお札、助かりました」
恭介の言葉に、柏内は目を伏せる。お札が発動した情景を、ありありと観てとったのだろう。
「私の力では、あれが精一杯です。ですが」
柏内はハンドバッグから、包みを取り出し、恭介に渡した。
「あなたなら、大丈夫です。そして」
柏内は、白井を引っ張る。
「ヒロ、弘樹は私ほどではないですが、きっと、あなた達をお守りできるでしょう」
「何言ってんだよ、ばあちゃん、もう行こうよ!」
顔を赤くした白井は、柏内の手を引き、校内の喧騒に戻っていった。
恭介が包みを開くと、サイコロほどの大きさの、灰色の立方体が一つ。
そして折りたたまれた、黄ばんだ紙が添えられていた。
手紙のようだった。
その頃。
牧江も、明日の一大イベントに向けて、自分磨きに余念がなかった。
牧江のオリジナル呪文をずっと呟いていた。
あたしは美人
あたしは可愛い
可愛いのは正義
だから、あたしは正しい
牧江の正義が普遍的なものなのか、ジャッジメントは間もなく下される。




