【第三部】 開始 一章 最初の門 4
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数日後、主役である陽玉用の衣装が出来上がった。
恭介が地底で過ごした時、スズメと一緒に織り上げた布に、小粒の天然石を散りばめたものである。
薄紅色をベースに、光が当たると何色もの色を放つ、美しい衣装である。
「これを着るのは、綿貫さんだから」
恭介が衣装を手渡すと、綿貫は緊張しながらも、衣装の手触りに目が輝いた。
「うんうん、女のコだねえ」
横で瑠香が目を細める。
衣装合わせと、本番に向けての打ち合わせは、瑠香の行きつけの美容室を借りて行った。
そこの店長も、瑠香のコスプレ仲間らしい。
綿貫のヘアデザインとメークを、当日請け負ってくれた。
「よろしくね、あたし、溝口」
溝口は、男の娘コスプレで有名らしい。
そこへ悠斗も合流した。
「ひえ、この人って、生徒会の人じゃあ…」
びびる白井に悠斗は快活に答えた。
「生徒会は馘になったよ」
「悠斗には、当日黒子姿で、照明を担当してもらう予定だ」
重要な役割だぞ、と恭介は付け加えた。
打ち合わせが終わると、白井が「あ!」と言って、ごそごそとカバンに手を入れた。
「俺のばあちゃんから、みんなに渡すようにって言われてた」
取り出したのは、小さなお札が人数分。なぜか悠斗の分もあった。
「白井くんのおばあさん、お祓い師だっけ?」
綿貫がお札を手に取って、しげしげと見つめる。
「うん、拝み屋。これ、厄除けとか言ってたよ。文化祭も、わざわざ見に来るらしい」
達筆な墨字というか、梵字というものか、触れると温かいお札だった。
恭介もありがたく頂戴した。
あとになって、貰っておいて良かったことがわかる。
その夜のこと。
藤影の屋敷全体を、強力な陣で囲み、屋敷内の人間を操ろうとしている者が、結跏趺坐を取りながら、自身の意識を虚空に飛ばしている。
先日、簡単には破れないと自負していた藤影の屋敷の結界に、小さな綻びが生じた。
自分と同じような力を持つものは、世の中にはそれなりに存在しているが、ピンポイントでこの屋敷を狙うものは、そうはいない。
向こうから飛ばした意識を、逆にトレースして行く。
そして突き止め、しかるべき処置をはかる。
幸い、侵入して来た者は、その意識を隠すようなスキルは、持っていないようだ。
逆探知はするすると、侵入者の居場所へと近づく。
もうすぐだ。
侵入してきたそいつの実体を、捉えることが出来る!
ところが
あるところまでいった意識は、カーンと弾かれた。
藤影の屋敷に意識を飛ばしてきた者は、半径数キロに渡り、光の輪に守られていた。
眩しい。
とても眩しい。
眩しくて、よく見えない。
逆探知、今夜はここまでか。




