【第三部】 開始 一章 最初の門 3
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恭介と悠斗は、時を忘れて話続けた。
五年間の空白に色彩が加わり、分岐した流れがまた一つになった頃には、始発電車が走っていった。
「このままサボりたいくらいだな」
悠斗が笑った。
「うん」
恭介が答えた。
「こーら、若者! 朝ごはん食べたら、ちゃんと学校行けよ」
顔を出した瑠香が、サンドウィッチのパックを二つ、投げてきた。
「悠斗のおかげで、例の文化祭の企画、だいたい完成したよ」
悠斗の持つ、侑太や他のメンバーの情報は、恭介の計画の補完に大変有用だった。
「俺もできるだけ、手伝うよ。まあ、生徒会の連中の目を盗んでだけど」
自宅に一度戻る悠斗が、玄関で恭介を振り返った。
「お前のこと、なんて呼べば良い? 学校とかで」
恭介はちょっと考えて「松本、で」と言う。
「うん、わかった。じゃあまた、松本」
恭介は悠斗を見送ったあと、瑠香の部屋を訪ねた。
瑠香は、なぜか猫耳のついたウイッグをつけて、恭介を迎え、「だいじょうぶ?」と言った。
恭介は頷き、瑠香をそっと抱き寄せた。
「ありがとう」
本当は、もっと早く、悠斗と話をしたかった。
紙一枚くらいの薄さの壁が悠斗との間に存在していて、恭介の自力だけでは、取り除けなかった。
悠斗から来てくれてよかった。
きっかけを、瑠香が作ってくれて、よかった。
「うん。よかったね」
瑠香は恭介の頭を、ぽんぽん叩いた。
「あ、でもキスはだめよ」
恭介は瑠香から思いきり体を離し、
「しませんてば。そんな気ないし!」
そう言って自室に戻った。
瑠香は口を尖らせて呟いた。
「しても、良かったのに」
美術部の一年、白井、綿貫、そして恭介により、文化祭で使う書割がほぼ完成した。
古代中国を偲ばせる山水画を基調に、三体の瑞獣が描かれている。
さらに、よくよく眺めると、亀の甲羅の文様が書割の縁を囲んでいた。
「うおお、こうやって見ると、俺らって上手くね?」
白井がパチパチ手を叩く。
「いや、ほとんど、綿貫さんの力でしょ」
恭介がそう言うと、綿貫は顔を赤くした。
「でも松本、準備ってこれで終わり?」
白井の質問に恭介が答える。
「これは下地。当日はプロジェクションマッピングも使う」
白井はスゲーと叫んだ。ただし、白井は、プロジェクションマッピングが何なのか、よくわかっていなかった。
「それと、一番大切な衣装は、今極秘で作成してる」
恭介の言葉に、綿貫は唇を一文字に引き締めた。




