【第三部】 開始 一章 最初の門 1
第三部 開始
一章 最初の門
1
近頃、瑠香は、悠斗と、しばしば行動を共にしている。
母親の件で、恩義を感じていることもあり、悠斗が瑠香の誘いを断ることはない。
そして忠実な同行者、あるいは用心棒のように、悠斗は瑠香の背後を守っている。
ある時、悠斗が意を決したように、瑠香に言った。
「彼、松本くんと、少し話がしたいのですが」
「え、学校でつかまえて、普通に話せば良いんじゃない?」
校内では、侑太らの目があって、直接話しかけるようなことは控えている。
あの日以来、侑太は悠斗を完全無視。他の連中も、不気味なほど悠斗に何もしてこない。
しかし、ここで悠斗が外部生の誰かと親しくしていたら、何らかの攻撃や嫌がらせが、外部生全体に及ぶのは目に見えている。
「そっか。…じゃあ、今夜、ウチに来て」
その日の夜。
恭介が自室でパソコンに向かっていると、ノックの音がした。
瑠香かなと思ってドアを開けると、そこには悠斗が立っていた。
「よおっ」
こんな不意打ち、ずるいよ、と思いながら、恭介は悠斗を部屋に上げた。
「これ、手土産」
悠斗が差し出したコンビニの袋には、ポテトチップスと何種類かの駄菓子。そしてグレープ味の炭酸飲料が二缶入っていた。
恭介は、くすっと笑う。小学生の頃からの悠斗の好きな食べ物。
悠斗を適当に床に座らせて、恭介はパソコン用の椅子に腰を下ろした。
「急に来るから、びっくりした」
恭介の本音。
「ああ、すまない。畑野さんに無理言って、住んでるとこ、教えてもらった」
「何かあったか?」
侑太らと、鬱陶しいことでも起こっていないか、恭介は少し心配していた。
「お礼をちゃんと言ってなかったから」
母を救い出し、猫を連れ出してくれたことへの感謝を、悠斗は述べた。
一番救われたのは、悠斗自身であったが、それは胸で呑み込んだ。
「それと、松本、どうしても聞きたいことがある」
悠斗は炭酸の缶を一つ、恭介に渡して、自分のを一口飲んだ。
つられて恭介も、缶のプルトップの部分をティッシュで軽く拭く。
その仕草を、悠斗は見つめて口を開く。
「良いトコの坊ちゃん、みたいなことするんだな、松本」
「え、何が」
「俺、缶ジュース飲む前に、飲み口をティッシュで拭く奴なんて、一人しか知らないんだ」
恭介の表情に、動揺の色が浮かぶ。
「なあ、松本、お前 誰?」




