【第二部】失くしたものと得たものと 四章 青空に向かって 4
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恭介は帰宅してからの日々のルーティンワークを済ませたのち、生徒会企画の元になっている、アニメを視聴した。
ちなみに、恭介のルーティンワークとは口座残金の確認である。本日も、諸々の配当による入金があった。
『悲恋の恋人同士だった二人は魔人によって引き裂かれた後、転生して、私は鳳凰の力、彼は麒麟の力を得たので、今度こそ闇の魔族を倒し、ハッピーエンドを迎えます!』
あらすじはこんな感じだった。
時は古代の大陸にある神仙界。
農業に従事する若い男性、牽星と、織物を創り出す女性、陽玉は、将来を誓いあった仲だった。牽星は真面目な働き者、陽玉は、神仙界きっての美女であった。
神々も天女たちも、二人を応援し、それぞれに、青い宝石と赤い宝石を渡す。
宝石の力もあって、牽星の育てる果実には、邪を祓う効果があり、陽玉の織った布は、病を癒すと言われていた。
当時、神仙界と人間界に住むものたちは、互いに近しい存在であった。牽星の果実も陽玉の布も、人間界では貴重品として大切に扱われていた。
ある日、人間界に魔族が攻め込む。神仙界の神々は人間界を救うため、人間界に戦士を派遣する。ただしそれは魔族の策略。魔族の王が真に欲していたのは、神仙界と陽玉だった。
魔族の王は、陽玉が自分に嫁げば、戦いは止めると言う。罪なき人間や神々の戦士が、次々と倒れていくことに耐えられなくなった陽玉は、魔族の王に従う。
行くなと叫び、陽玉を繋ぎとめようとする牽星は、魔族の王の配下の者に無残にも切り殺される。それを見た陽玉も、崖から飛び降り、自ら命を絶ってしまうのだった。
陽玉を手に入れられなかった王は激怒し、神仙界を破壊した。その後、人間界は魔族の支配下におかれ、人間たちは、奴隷のように生きるしかなかった。
それから千年後…
第一話はここで終わった。
どこかで聞いたことがあるような話を、集めたアニメという印象だった。
見ていて、突っ込みどころがたくさんあったが、まあそれは良い。
牧江は、この陽玉というヒロインのコスプレをしたいのだろう。
美術部が手掛けるのは、主に書割と衣装。
となれば、復讐の計画は…
同日、夕刻。
狩野学園の非常勤講師、東山は、自分が理事を務める学会の代表として、厚生労働省と警視庁が合同で開催する会議に出席していた。
開始前、厚労省からの出席者の一人に、知った顔を見つけてしばし雑談をした。
「いやあ、びっくりしたよ。テストが出来なかったのは、問題が悪いからだと怒鳴られてね」
「天下の東山教授に、そんなことが言えるなんて、無知より怖い物はないというか…先生、どこの学校ですか、それ」
「狩野学園さん、だ。あ、校名はオフレコで」
東山は唇に人差し指を立てる。
「えっ、ウチの愚息も通ってますよ」
その厚労省の役人が、首から下げているカードには、白井何某と印字されていた。




