間奏2 白井弘樹のつぶやき
今日、部活で、やな事聞いちまった。
グロいつうか、酷いつうか…
そんで俺の顔色見たのか、松本が肩を軽く叩いてくれた。
不思議と落ち着いた。
やっぱり、ばあちゃんの言った通りだ。
あいつなんだな、って。
俺、白井弘樹は中学まで、北関東の田舎で過ごした。
親父は、新幹線通勤してまで、都心部でのハードワーク、おふくろは医療職。
どっちも忙しかったので、もっぱら、ばあちゃんに面倒みてもらってた。
俺のばあちゃん、おふくろの母親だが、地元じゃ、拝み屋してる。
朝晩、家から見える山に向かって、ブツブツ何か唱えてる。
家には、よく地元の人が相談に来る。
結婚の日取りは何時が良いかとか、孫の名前を付けてくれとか、家相がどうしたこうしたとか、田舎ならではのお悩み事。
ばあちゃんは、時に優しく、時にちょっとだけ厳しく、いろんな悩みに付き合っていた。
俺は小さいころ体が弱く、人混みに行くと気分が悪くなる性質だった。
「ヒロは、霊媒体質だからね」
ばあちゃんは、そんなことを言って、寝込んだ俺に、自分で書いたらしいお札を貼ってくれたりした。おふくろに見つかって、引っぺがされてしまったけど。
そんなばあちゃんの血を受けついだのか、俺も少しだけ『見える』ことがある。
もう十年ぐらい前のこと。
ばあちゃんを頼って、都会からおっさんが一人、やって来た。
高そうなスーツを着ていたが、腹はメタボってた。
そのおっさんの背中には、黒い霧みたいに見える、数本の腕がまとわりついていた。
おっさんの悩みは、よく分からなかった。忘れちゃったし。
でも、おっさんが帰ったあと、ばあちゃんが
「ありゃあ、無理だ」
と言ったことだけ覚えてる。
しばらくして、俺が中二になった頃、いきなりばあちゃんが俺に命じた。
「お山の神様が仰った。ヒロ、お前、都会の高校に行け」
ばあちゃんは勝手に、受験校まで決めていた。
結構偏差値の高い、オシャレな学校。
え、マジすか。
俺、頭良くないし、好きな娘と離れるの嫌だし。
意外なことに、親父とおふくろは大賛成だった。
「都会は、可愛いコがたくさんいるぞ」
親父の一言で、俺も腹をくくった。
親父はあとで、おふくろに怒られていたっぽい。
なんかわからんままに、高校に受かった俺に、ばあちゃんはこう言った。
「ヒロ、高校いったら、お前が『感じがいい』と思う人と付き合え。男でも、女でも」
その人がお前を守ってくれる。
お前もその人たちを守れ。
だから、俺は、同じクラスで一番、いや学校内でも一番、『感じがいい』と思った松本と仲良くなった。
松本って不思議な奴だ。
すげえ苦労してるみたいだけど、どこか上品つうか、育ちがよさげつうか。
何より、あいつの後ろに、時々、神々しい光が見えるんだよね。
一緒にいると、すごく落ち着く。吐きそうな気分も治ってしまう。
これから、俺も誰かを守れる男になるんだ。
松本が困っていたら、手を差し伸べる。
綿貫が、いまだ困っているなら、なんとか解決させてあげたい。
あ、松本と一緒にね。




