【第二部】失くしたものと得たものと 三章 夕立 3
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瑠香は『殺人』とか『犯人』とか、物騒な単語を口にしながらも、表情は明るい。
「多分、フリーライターさんも、その辺のことを調べていたんじゃないかなあ」
「島内さん、今、どこにいるんだろう。俺、携帯番号しか知らないし…」
「彼が生きていれば、いずれ会えると思うわ、あ、追加でクリームソーダお願い」
ともかく、悠斗はまだしばらく、身辺に気をつけておくようにと、瑠香は言った。
「おたくの学園さん、ほかにもちょっと、気になることがあるし」
瑠香は悠斗に動画を見せた。
牧江が美少女アニメか何かのコスプレで、微笑んでいる。
『美少女パワーを、もっともっと強くするために、りなリン、スゴいアイテムをゲットしましたあ!』
イベントの協賛企業から提供されたものの、コマーシャルみたいだ。
その協賛企業は、藤影薬品。
提供されたものは、サプリメントだった。
同じ頃。
恭介と白井と綿貫が、久しぶりに美術部の部室で顔を合わせていた。
そこに、牧江がやって来た。
「お初でーす」
牧江は指先で髪をくるくる巻きながら、ちょっと舌なめずりした。
「美術部の皆さんに、生徒会からお願いがあって来ました!」
三人とも、牧江の芝居がかったテンションに、固まっていた。
「もうすぐ、文化祭があるんだけどね、今年、生徒会はスペシャルな企画を用意してるの」
白井が気を取り直して、牧江に向かう。
「美術部にお願いって何?」
「衣装のデザイン、やって欲しいの」
牧江はそう言いながら、恭介に身体を近付ける。
「松本くん、だよね。見たよ、体力テスト。カッコ良かったぞ」
恭介は一歩退いて、冷静に話す。
「俺たち一年だけでは、決められません」
くすくす笑う牧江。
「ああ、大丈夫、大丈夫。二年生以上には、もう話ついてるから」
牧江の声と喋り方は、あの時と変わっていなかった。
恭介を水中に突き落とした時と。
聞いているだけで、恭介の胃はムカムカしてくる。
こんな風にふるまえば、男は皆、言うことを聞いてくれると信じて疑わない態度も、背中を刷毛で触られるような、不快感を醸し出す。
「それじゃあ、くわしいことは、またあとで」
牧江は去った。
あと数分、牧江に向かい合っていたら、本気で嘔吐したかもしれないと恭介は思った。
「なんだろ、あれ。可愛いのは間違いないけど…なんつーか、やな感じ」
白井が恭介の感情を代弁してくれた。
窓の外、雲の高さが増していた。




