【第二部】失くしたものと得たものと 三章 夕立 2
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島内の事務所は既になくなっていた。
ドアには、不動産屋の連絡先の札と、何枚かの日に焼けたビラが貼ってある。
ビラには、島内の不祥事を糾弾する文字が並んでいた。
悠斗も島内の起こしたという、所謂、淫行事件のことは知っていた。
まさか、と思った。
牧江から、証拠となる画像を見せつけられても半信半疑だった。
ただ、その時は気が付かなかったのである。
なぜ、牧江が島内の証拠画像を持っているのか。
なぜ、悠斗と島内のつながりを、牧江もそうだし、侑太や他の連中までが知っていたのかを。
空き室となった事務所を見て、瑠香は特別驚きもせず
「ま、想定範囲ね」
と言い、そのまま事務所の近くの喫茶店に、悠斗を誘った。
「ところで小沼君、お母様の体調、いかがかしら?」
悠斗の母は、だいぶ回復し、寝たきり状態ではなくなっている。
現在住んでいるところにある、開業医で受診したところ、母が倒れたのは貧血と過労による、一時的なものであったろうと診断された。
「立て替えてもらった入院費、必ず返します」
瑠香と松本には、ただ感謝しかない。
「ああ、うん、いつでも良いから。それよりも…」
瑠香はレモンスカッシュを一口飲んで、悠斗を見上げた。
「時系列でまとめてみるね。まず、小学校五年の時に、小沼君の友達が水難事故にあった。
その後、その友達と、あんまり仲良くなかった従兄にあたるコが、友達のおうちの養子になった。
保険金も、たくさん出た。ここまでは、良い?」
悠斗は頷く。
「でも、小沼君は、事故そのものに違和感があって、養子になった男子とその仲間を、うさん臭く思ってた。
そんな時に、フリーライターが水難事故を調べていることがわかって、情報交換をしていた」
「そうです」
瑠香は話続けた。
「ある日、小沼くんのお母さんが倒れて入院し、その後、意識の良くない状態が続いた。お母さんが倒れて、小沼くんがバタバタしてた頃、フリーライターさんが逮捕された。小沼君との連絡が途切れてしまった。オッケー?」
瑠香はもう一口分、ストローを啜る。
「となると、答えは出るわね。水難事故をつつかれたくない人たちがいる。それは、お友達が海に落ちたのは、事故じゃなかったから」
悠斗は目を見開く。
恭介が消えたのは、事故ではなかった?
では、恭介は!
本当は!
「おそらくは計画的な殺人でしょうね」
瑠香はさくらんぼを齧っている。妙に赤くみえる、小さな果実。
「誰が、一体…」
「一番得する人。犯人捜しの鉄則」
店内は、冷房が効きすぎていた。




