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第二部

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【第二部】失くしたものと得たものと 三章 夕立 1

3章   夕立



侑太から、「実害がなければ」外部生の松本と、悠斗の深追いはするなと、原沢や戸賀崎たちに指示が出た。

侑太の元には、悠斗の自宅に侵入した仙波の部下が、何者かに邪魔されたことや、車のドライブレコーダーから、画像を記録したSDカードが抜き取られたことも伝えられていた。


原沢は納得していなかったが、従わざるを得なかった。


そんな原沢の様子を見て、戸賀崎は笑った。

「俺に言ってくれれば、いくらでも実験用の動物あげたのに」


ストレスがたまると、戸賀崎は実験用の小動物で遊んでいるという。

どんな遊びなのか、原沢も詳しくは知らない。


ただ、戸賀崎はいつも、何か生臭い。手や腕に、引っかき傷が残っていることもある。


「俺は原沢みたいに、サプリの大量摂取、しないからな」

原沢が、ガリガリとサプリを噛み砕くのはストレスがある時だと、戸賀崎は知っていた。


特に今日の原沢は、通常の倍くらいのサプリを噛み砕いていた。


中間テストも終わり、体育の授業は男女別に、体力測定テストが行われている。


「なんだよ、原沢選手の一人勝ちだろ? そんなにストレスたまるようなもんか?」


俺は適当にやってるけどね、と戸賀崎は言う。


確かにそうだった。

全国どころか、世界基準で戦っている原沢にとって、校内の体力テストなど、全力を出すまでもなく、すべて一番で当たり前だった。


去年までは。


体力測定テスト九項目中、七項目で、原沢は負けたのである。


しかも、持久走、シャトルラン、五十メートル走という、原沢が最も得意とするトラック競技で一番を取れなかったことは、原沢のプライドを甚だ傷つけた。


「体力テストなんかに、原沢は全力だせないよな」


同じクラスの連中にそう言われ、曖昧に笑うのが精一杯だった。


原沢を抜いた奴は、陸上用のスパイクも履かず、五十メートル五秒八という、あわや日本記録かというような数字を出したのだ。


陸上部の顧問が満面の笑みで、そいつを陸上部に勧誘したことで、原沢は一層イラついた。

あんな笑顔、原沢に向けられたことは一度もない。


原沢は侑太に訴えようと思った。

実害は、もう出ている、と。


そんな原沢の姿を見て、戸賀崎は冷笑した。

筋肉バカはこれだから、と。


一週間後、戸賀崎も、奴、外部生の松本という存在に、脅かされることになるのだが。


「すげーじゃん、松本! お前って、足速かったんだな」


体力測定後、白井がバンバン恭介の背中を叩く。


空気の薄い地底で走り回ったことが、こんな形で生かされるとは、恭介も思っていなかった。


「ヒロだって、前屈、超柔らかかったよ」

「俺、毎朝、酢を飲んでるから」


テストも終わったし、今日は久しぶりに部活に行こうと恭介は思った。


その日の夕方、悠斗は瑠香と一緒に、こちらも本当に久しぶりに、フリーライターの元を訪ねていた。


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