【第二部】失くしたものと得たものと 二章 初夏の風 5
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恭介は気を失った男たちを、止めてあった車に放り込んだ。
あらかじめ、瑠香には、車に残っている者がいないことを確かめさせていた。
ついでに、瑠香の進言により、車のドライブレコーダーのSDカードを抜き取った。
車の後部座席には、動物用のキャリーバッグが置いてある。
そうか、この男たちが探していたのは!
恭介と瑠香は、再び悠斗の家に入り、それが好んでいる場所に行く。
悠斗の部屋の押し入れを開けると、それはぴょーんと飛び出してきた。
かつて公園で拾った、左右の瞳の色が違う猫。
「やん、可愛い」
瑠香が呟いた。
この猫を捕まえて、何をするつもりだったのか、恭介は考えたくもなかった。
猫は瑠香に抱かれて、うっとりと目を閉じた。
悠斗の母親を、半ば強引に退院させた時に瑠香は言った。
「人質を奪還されたら、相手は必ず報復行為に出る!」
それゆえ、悠斗とその母を自宅から遠ざけた。
そして自宅に残っていた、悠斗が大切にしていたものも守ることが出来た。
瑠香の危機管理意識に救われたと、恭介は思う。
同時に、この瑠香という女性は、一体何者なのだろうとも。
その晩遅く、侑太は仙波からの報告を受けていた。
「侑太さん、悪いことは言わない。松本佳典という外部生に、あまり関わらない方が良いです」
松本佳典。
小学校は既に廃校。当時を知るものを探し出すのは困難。
中学校では転校を繰り返し、一時期、海外の日本人学校にいたが、その国の内乱により強制退去。
中学卒業認定試験を別枠で受けて合格した。
なお、海外にいた頃、両親共に死去。
現在の後見人は畑野景之。
「畑野は現在、海外留学する若者の現地サポートなどをしているようですが、元は内閣情報調査室にいた人間です」
内閣…?
「諜報活動に長けた公務員。要は、スパイです」




