【第二部】失くしたものと得たものと 二章 初夏の風 4
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全額清算と聞いて、侑太は絶句した。
悠斗の母親の入院は、一年以上になる。その費用は、百万や二百万ではきかないはずだ。
学園は基本的にバイト禁止なので、悠斗は日々の生活ですら、カツカツだろう。
どうやって…
まさか!
侑太は、どうにも気になる男のことを、仙波に命じて調べさせることにした。
出身校、家族や友人関係、入試成績、そしてできれば、資産状況まで。
その頃、母を連れた悠斗は、瑠香の指示で、あるマンションの一室に着いた。
しばらくは、自宅にも戻らない方が良いと言われたからだ。
母は、思ったより意識がはっきりしていて、とりあえず悠斗は安堵した。
それにしても。
あの松本という外部生、雰囲気と眼差しが、やはり似ている。
「ねえ、悠斗」
マンションに備えられていたベッドに横たわった、悠斗の母、碧が声を出す。
「さっき一緒だった男の子、誰?」
「ああ、同じ学校の…」
「私、一瞬、恭介くんかと思ったわ。そんなはず、ないのにね…」
碧は、お金が、とか、お医者さんに挨拶を、とかぶつぶつ言いながら、眠りに落ちた。
(俺も、そう思ったよ、母さん)
その恭介と瑠香は、悠斗の自宅の門をくぐった。
貴重品と当面の生活用品を、持ち出すつもりである。
恭介は小学生時代、何度も来たことがある。
あずかった鍵を差し込もうとしたその時、恭介は直観した。
中に、誰かがいる!
一度、門を出て見渡すと、路上に黒いワンボックスカーが停車していた。
そのまま瑠香に合図して、ぐるっと塀を回って裏口に向かう。
裏口周辺には特に何もない。車もついてきていない。
悠斗の家の裏口の鍵は、いつも植木鉢の中にあった。
それは変わっていなかった。
恭介は、自分だけ屋内に侵入した。
家の中は真っ暗だったが、時折、廊下にも光の線が漏れてくる。
やはり、誰かがいる。
動く気配から、いるのは二人だ。
「…ないな」
「この部屋じゃないのか」
ささやき声が聞こえる。
一人の頭に向かって、恭介は手に集めた水をぶつけた。
「ぎゃっ!」
ぶつけられた男は、情けなく叫ぶ。
そのまま顔中に水を貼り付けておく。
「どうした!」
もう一人の男が振り返った瞬間、首に手刀を入れた。
水にもがく男の腹にも、一撃お見舞いした。




