【第二部】失くしたものと得たものと 二章 初夏の風 2
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悠斗を脅していた男子二人は、学園高等部の体育系部室に戻っていた。
原沢廉也に事の顛末を話すと、その瞬間、二人とも原沢に顔面を蹴られた。
「チッ、使えねえ」
原沢は、昔から悠斗が気に入らない。
たった一度のことではあるが、小学一年生の時に、原沢は徒競走で悠斗に負けた。
今もそれが許せない。
自分たちのグループに向ける生意気な目付きにも、ずっとムカついていた。
侑太が悠斗の母親を、藤影の息のかかった病院で面倒みる代わりに、自分たちの命令に従わせるようになっても、原沢の気持ちは変わっていない。
ムカつく
ムカつく
ムカつく!
なんであいつは!
原沢は、ガリガリとサプリメントの錠剤を齧った。
潜在能力を引き出すと、藤影グループが謳っている健康食品の一つである。
侑太をはじめ、生徒会のメンバーは皆、愛用している。
ただし、悠斗をのぞいて。
錠剤を口内ですり潰すと、原沢のムカつきも少し治まった。
治まったところで、原沢は侑太にスマホでメッセージを送った。
恭介と瑠香と悠斗は、喫茶店でぽつぽつ話をしていた。
瑠香はかいつまんで、自分と松本佳典が九州方面からやって来たことや、今日は、狩野学園近くの会場でコスプレイベントがあったので、せっかくだから佳典に見せようと思って来たことを話す。
悠斗は、小さくため息をついたあとに
「嫌な連中とつるんでいましたが、さすがに限界です」
そう言った。
嫌な連中とは、侑太たちのことだろうと、恭介は思った。
「何か、理由があるの? 動物に簡単に危害を加えるような連中と、君が付き合えるとは思えないわ」
瑠香の問いに、悠斗は答えずカップに口をつける。
悠斗が連中の言いなりになるとすれば、誰かをかばってのことではないか。
悠斗がかばう相手と言えば…
「小沼…くん、君のお母さん、何かあったの?」
驚いた眼で、悠斗は恭介を見た。
その表情だけで、恭介は悠斗を取り巻く状況を垣間見た。




