【第二部】失くしたものと得たものと 一章 春の蕾 7
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春の宵であった。
薄暗がりの中、公園内に、恭介は三人の男たちを認めた。
一人は猫をぶら下げていた。
もう一人は、片手に何か光るものを持っている。
そして、その二人に対峙しているのは
―悠斗!―
「お前が言うこと聞かなかったら、こうなるぜ!」
光る刃を猫の腹に当てる男は、以前、踊り場で悠斗と揉めていた奴だ。
「やめろ!」
悠斗が叫ぶ。
「こいつ腹ぼてじゃん。腹を裂いたら、子ども、引きずりだそうぜ」
猫の首を持っている男が、下卑た口調で言う。
反吐が出るセリフだ。
悠斗が刃を掴もうとする。
刃はその掌をすり抜け、悠斗を傷つける。
恭介が己の拳から、炎を出そうとしたその時、甲高い笛の音が響いた。
「こらあ! 君たち! 何してるの!」
婦警が公園に走ってきた。
少なくとも、恭介以外の男たちには、本物の婦警に見えたようだ。
「やべっ!」
二人の男は、猫を放り出し、婦警がやってきた方向と反対向きに、脱兎のごとく走り去った。
婦警は恭介に向き直り、ピースサインを出した。
「どう? 結構似合ってるでしょ。このカッコ」
婦警のコスプレ姿をした瑠香がそこにいた。
そこに残った悠斗は、猫の介抱をしていた。
彼の右手からは、まだ血が流れていたが、慈しむように猫を見つめる悠斗。
その眼差しは、かつてのままだった。




