【第二部】失くしたものと得たものと 一章 春の蕾 6
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綿貫佳穂理が、友だちとの話を二人にしたのは、それから一か月後のことである。
その話を聞いて、恭介は自身の復讐の遂行計画を真剣に打ち立てることになる。
自分のことだけなら、目を瞑ることも出来た。
別人になりすました今、何事もなかったように、新たな人生を歩いていくことも不可能ではない。
しかし綿貫が明かした内容を知った時、連中をこのままにしておくことは、もはやできないと悟った。
入学して一週間もたつと、恭介は白井と冗談を言い合うような仲になり、同じクラスの連中とも、だいぶ親しくなっていた。
「俺さあ、初めてお前見た時、中二病こじらせたオタクだと思ったよ」
白井からそう言われて、恭介はちょっと笑った。
ぼさぼさの黒髪と、メガネの変装は、それなりに有効だったようだ。
「俺は白井のこと、単なるチャラ男だと思ってたけど」
「あ、それ、正解」
それとな、と白井は付け加える。
「俺のこと、ヒロと呼んでいいぞ。弘樹でも、まあ可」
四月の末に、侑太をはじめ、その取り巻きは、生徒会役員やら何かの委員会委員長やらになって、一層我が物顔で、校内を練り歩くようになる。
悠斗の姿もたまに見かけた。
大体、侑太の少し後ろを歩いていて、一部では用心棒などと囁かれていた。
悠斗の瞳が、曇りガラスのように見えるのは、なぜなのか。
そもそも、小学部時代には嫌っていたはずの、侑太の側にいるのだろう。
恭介は高校で、新しい生活と新しい友人を得ることができた。
だが、恭介の生還の喜びを、一番分かち合いたかった友は、河の向こうに行ってしまったのか。
高校からの帰り道、駅の手前に小さな公園がある。
通り過ぎようとしたその時に、恭介の耳には、猫の鳴き声と、争うような複数の男の声が聞こえた。




