【第二部】失くしたものと得たものと 一章 春の蕾 3
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パライバとは、ブラジル北東部の角にある州の名前である。
その地域から、かつて採れたブルーのトルマリンは、今ではプレミア価格のものになっているそうだ。
亭主から紹介された、日本でも有数の宝石商からも、破格の値段で譲って欲しいと懇願された恭介は、一部を除いて売ることにしたのだった
。
「えええ! いくらで売ったの? 私に相談してくれれば、絶対、史上最高値で売ったのに!」
瑠香は騒いだ。
「ていうか、それ最初に売ってたら、肉体を酷使しなくても、すぐ百万いったでしょ」
同じ頃。
高校の生徒会室には、侑太をはじめとする面々が集まっていた。
藤影侑太
戸賀崎翼
牧江里菜
原沢廉也
そして、小沼悠斗
表向きは、五月に行われる生徒会選挙に向けて、一年生のサポートメンバーを集める会合だった。
だが、次の会長とその他の役員は、もう決まっているようなものだった。
顔合わせが済むと、現会長らは「あとは、好きにしていいよ」と、早々に帰っていった。
「ゆうくんが会長でしょ。副は誰? 翼?」
「俺は研究忙しいから」
と戸賀崎が里菜に言う。
「俺も練習忙しいぞ」
聞かれる前に、原沢が少しふてくされた声を出す。
「まさかの、小沼っち?」
里菜が上目遣いに悠斗を見ると、侑太が口を開いた。
「まあ、二年の誰かにすりゃあいいだろ。それよりも…」
侑太は、口を少し歪めて笑う。
「外部から来た連中に、狩野学園のことを教えなきゃならないな」
侑太の脳裏に、入学式でたまたま目が合った奴の姿が浮かんでいた。
いやな目付きだった。
媚びるでも畏怖するでもない、興味がある風でもない、フラットな視線の男。
そして
どこかで見たことのあるような外見。
「悠斗くーん、外部生に、ここの厳しさ、教えてあげてよ」
悠斗の内心が表情に浮かんだ。
「嫌とは、言わないよね」
侑太はわざわざ悠斗の肩を抱き、耳元で囁く。
「最近、お母さんの調子、どう?」
侑太を軽く突き飛ばし、悠斗は生徒会室から出ていった。
背後から聞こえる笑い声を、悠斗は聞かないように走った。




