【第二部】失くしたものと得たものと 一章 春の蕾 2
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「ところでさ、きょう、じゃなかった、佳典、バイトとかしないの?」
入学式後、恭介と瑠香は、借りたアパートに戻った。
住居は高校から電車で三十分程度の、閑静な住宅地である。
「もう少し、おしゃれな街が良かった」
瑠香はそう言っていた。
本当は、恭介も生まれ育った自宅の近くに住みたかったが、何分、あの辺りは家賃が高い。
瑠香も、同じアパートの隣室に住むことになった。
畳敷きの二部屋に小さな台所。
古い造りだが、東南向きの窓が気に入った。
「校則で、原則バイト禁止ですよ」
「えっ、じゃあ生活費どうすんの? おじいちゃんにお金借りたの?」
恭介は苦笑しつつ答える。
「百万円貯めた時に、もう少し稼いでいましたから」
稼いだというのか、売ったというのか。
恭介が山深いところの土木現場で働いていたある日、たばこの不始末が原因で、ボヤ騒ぎが発生したことがあった。
生憎と、台風が接近していて風が強く、火は瞬く間に、工事用資材まで広がった。
その地域の消火栓は、さび付いていたのかうまく稼働せず、バケツリレーで水を運んでも、まさに焼け石に水状態。
消防に連絡したものの、到着までには時間がかかりそうだった。
その時
恭介がなんとか消火栓をこじ開け、そこから出た大量の水で、無事に火を消し止めた、ということがあった。
実際は、見るにみかねた恭介が、地下から水を引き寄せたのだが。
資材への被害も最小限で済み、恭介は現場監督から涙流さんばかりに感謝され、お礼にと、いくばくかの現金を渡されたのだ。
恭介は断った。
ではせめて、食事でもと言われ、繁華街の小料理屋で夕食をご馳走になった。
どうやら食いつめた苦学生と思われたらしく(あながち間違いでもなかったが)、その後も何回かご相伴にあずかった。
その店で知り合いになった人のなかで、骨董品などの目利きをしているという初老の男性がいた。
たわむれ程度に、恭介はその男性の店を訪ね、地底でスフィンクスを倒した時に得た、石の鑑定をしてもらった。
薄いブルーの石を見せた時、初老の亭主は目を見開き、かたかた震えだした。
「に、にいさん、あんたこれをどこで手に入れた!」
初老の亭主は声がかすれていた。
「これは、パライバトルマリン! この大きさの石は、いまでは手にはいらん!」




