【第二部】失くしたものと得たものと 一章 春の蕾 1
第二部
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恭介の高校生活は、入学式とともに始まった。
松本佳典の呼名はまだ慣れないが、幼児の頃から何年も通った場所である。
校舎は変わっても、門から続く景色は同じだ。
戻って来ることが出来た。
それこそが奇跡だと思う。
改めて、四体の聖獣に感謝しながら、恭介は式典に向かった。
「何、にやついてるのさ、佳典」
保護者代行として、入学式についてきた瑠香がからかい気味に言う。
そういう瑠香は、いつもの派手な格好をやめて、黒の式服を着込んでいる。
長い髪も後ろで縛って、丸くひとつにまとめていた。
実年齢よりずいぶん年上に見えるが、保護者というよりは、秘書といった雰囲気だ。
「別に、にやついてなんかないけど…」
瑠香の指示により、恭介は髪を真黒に染め、黒ぶちの伊達メガネをかけた。
長めの前髪と相まって、なんとなく鬱陶しい。
瑠香曰く、アキバでよく見かける男子像、だそうだ。
狩野学園高等部は、ひと学年二百五十名程だが、内部進学組が約二百名。
外部からの進学組は一クラス分である。
新入生の代表として挨拶する生徒は、内部進学組から選ばれる。
今年度の代表は、やはりというべきか、アイツだった。
「代表、藤影侑太」
壇上に立つ侑太は、当たり前だが体が大きくなり、小学生の頃よりも、鋭角的な顔つきになっていた。
挨拶を終え、座席に戻る侑太と、恭介は一瞬、目があった気がした。
その視線をそらすことなく、恭介は侑太を見つめた。
いたって冷静な自分を認めて、恭介は意外だった。
直接連中と出会ったら、恐怖心や嫌悪感に襲われるかと思っていたのだ。
恭介は意識せず、瞬時に侑太の力量を計っていたのである。
そして確信していた。ああ、これなら戦えると。
今の恭介の力があれば。




