【第一部】絶望 三章 リライブ 10
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藤影姓となった侑太は、高等部の入学を控え、充足感に満ちていた。
中学部では思い通り、校内を動かした。
放っておいても、女子はいくらでも寄ってくるので、適当に食い散らかし、飽きたら部下に押し付けた。
これは養父、藤影創介のやり方を真似たのだ。
侑太自身、母は創介が結婚直前までセフレにしていた女。
創介は現妻、亜由美と結婚するにあたり、侑太の母を創介の弟に押し付けた。
侑太らが語学研修に行く前に、侑太は創介の実の息子だったと聞かされた。
偽の息子の恭介を排除したいので、力を貸して欲しいと。
侑太は心底嬉しかった。
それまで父と思っていた新堂陽介よりも、侑太は伯父の創介に憧れていたからだ。
陽介は研究肌の大人しい男性で、婿入り先の母の会社でも存在感はなく、エネルギッシュな風貌の創介とは異なり、小太りの地味なおっさんと言った体だ。
侑太が欲しかったロールモデルは、優しい穏やかな父ではなく、他人から恐れられるくらいの、財力と権力を行使できる、まさに創介のような男であった。
侑太は何度も、恭介と立場が入れ替わる自分を夢想した。
それが現実となり、勝ち組の人生が約束された今、生粋の性根が牙を剝きつつあった。
それは、特定不能のパーソナリティ障害。
いわゆる、サディスティックな人格である。
小沼悠斗の母親が、持病で倒れたことを知り、侑太は悠斗に取引を持ち掛けた。
母親の入院代は無料にしてやる。
代わりに侑太の仲間になれ、言うことを聞けと。
屈辱に満ちた目をしながらも、悠斗が侑太に従った時、侑太は下腹部が熱くなった。
以来、悠斗と仲の良い男子や女子に、理不尽な言いがかりをつけ、悠斗に殴らせてみたり、裸体画像をバラまいたりもした。
その都度、悠斗の苦悩する表情を見ることができる。
侑太には快感だった。
今は亡き恭介をも凌辱しているような、恍惚感に包まれていた。
「あら、恭介、じゃなかった佳典のガッコって、りなリンが居るとこなんだ」
狩野学園高等部のパンフレットを見ていた瑠香が、声を上げた。
恭介の入学の準備で、二人は島に戻っていた。
「りな…牧江かな。有名なんですか」
「うん。コスプレーヤーの間ではね。素顔も可愛いじゃん」
恭介は否定も肯定もしなかった。
海に落とされた時の連中の表情を思い出すと、当然、多少イラつく。
「瑠香さんは、なんでコスプレイヤーとか、知ってるんですか」
逆に質問してみたが、えへへと笑ってごまかされた。
「素顔といえば、佳典は素のまんまで入学するの?」
「まずいですか?」
「だって、わざわざ名前も変えて行くんだから、正体ばれたらダメでしょ」
「ばれますかね。…五年生の時より、背もだいぶ伸びましたし、声変わりしてるし…」
「いやいや、女子の眼力を侮っちゃアカンよ」
瑠香はぶつぶつ独り言を言っていたが、いきなり恭介の髪をわしゃわしゃと乱す。
「うん、キャラ作って、ちょこっと変装して行こう! 私がメークしてあげるから」
この後、瑠香は強引に健次郎を説得し、東京に移住することとなる。
名目は、恭介の安心サポート役になるから、とか。
なお、コスプレイヤーとして、人気を二分する『東のりなリン、西のルカにゃん』という存在を恭介が知るのは、だいぶ後になってからである。




