【第一部】絶望 三章 リライブ 8
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それから一週間ほど、恭介は情報収集に努めた。
健次郎は、細かいアドバイスは一切しなかったが、もめ事が起こったら、自分の名前を出しても良いと言った。
「九州なら、どこでも通用するはず」
とも言っていた。
生産手段を持たない、資格も特技もない若者が、百万を稼ぐのは容易ではない。
されど恭介は、三ヶ月よりも短い期間で、必ず成し遂げようと決意した。
そのくらい出来なければ、父を乗り越えるなど、単なる夢物語だろう。
父の経営論を直接聞いたことはなかったが、幼い頃、祖父の商売に関する哲学のようなものは、何度か聞いていた。
曰く
安く買って、それより少し高く売る。
お国のルールは守る。
人を不幸にしない。
これを拠りどころに、恭介は島から九州へ向かった。
「三ヶ月で百万、またその課題出したの?」
恭介から、しばらく島には帰らないというメールを見た瑠香が、健次郎に聞いた。
いつの間にか恭介は、格安スマホを手に入れて、緊急連絡用のアドレスを瑠香と交換していた。
「まあ、ふつうに考えたら、無理だな」
健次郎は淡々と答える。
今まで、何人もの大人に同じ課題を出した。
借金で食い詰めて、泣きながら健次郎を頼ってきた連中。
どうしても三ヶ月では、百万は無理だと怒鳴った奴。
タネ銭の一万で、一獲千金を夢見てギャンブルにつぎ込み、もう一度チャンスをと土下座した輩。
日払いの土木作業や、事故物件の特殊清掃などを三ヶ月、飲まず食わずに取り組めば、百万近くになるはずだが、それが出来ない連中だった。
「十五で男の子だと、風俗もできないよ」
スマホをいじりながら、瑠香は呟いた。
出来ないというわけでもないだろうが、そんな選択自体、あいつにはないだろうと、健次郎は踏んでいた。
一ヶ月半ほどたった夜。
陽に焼けた顔で、恭介は島に戻った。
通帳には、百万をちょっと越えた額が記されていた。




