【第一部】絶望 三章 リライブ 6
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翌日、恭介はセッコク島のあちこちを、健次郎に案内してもらった。
畑野瑠香は、朝晩一便ずつ巡回する船で、早くに出かけていた。
案内といっても、島全体は十キロ四方という小さいもので、観光名所となるようなものは特にない。
「今は、俺個人の島だ」
そう健次郎は言った。
その昔、セッコク島は、平家の落人たちが隠れ住んだ場所の一つだったという。
太平洋戦争の頃まで、セッコクは「石斛」と表記されていたそうだ。
島のあちこちに蘭が自生していて、石斛という漢方薬の原料となっていた。
「戦後は、ある薬品会社が島ごと買い取って、島に工場を建てたのさ」
健次郎が指さした辺りには、廃工場の建物が何棟か残っていた。
一部は黒く焦げた痕がある。
「今から二十年くらい前だったかな。不審火によって工場が焼け落ち、何人か死者も出た。薬品会社は工場を廃棄し、島も手放した。島の権利が巡り巡って、俺のとこにきた」
工場の壁面に、恭介にも見覚えのある、会社のロゴマーク。
「ひょっとして、その薬品会社って…」
「そう、有名な藤影さんだ」
足元の下草を、風が横に掃っていく。
「島って、いくらくらいで買えるのですか」
会話のつなぎ程度に、恭介は聞いてみた。
「ここは藤影がインフラ整備をしてくれた島だったから、当時一億だったよ」
ただし、現金一括払いだったと、健次郎は付け加えた。
一億の現金を簡単に用意できる健次郎とは、一体何者なのだろうか。
そんな恭介の表情を見てとったのか、健次郎は煙草に火を点けて言う。
「俺は、あぶく銭稼ぎしてた、ろくでもない奴さ。…金が必要か、少年」
恭介は頷く。
「いくら欲しい?」
恭介は、工場跡を見つめながら答える。
「藤影グループを、潰すくらい」




