【第一部】絶望 三章 リライブ 4
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恭介は瞬時に後方に向かった。
あれっと思うくらい、足元が軽い。
「地上とここでは、重力が違うのだ。ついでに空気の濃さも」
リンが言っていた。
地底空間は、人間が普通に呼吸できる場所であったが、その酸素濃度は薄く、重力の負荷は地上より重いということを。
ともかくも、悲鳴のあがった場所に恭介が駆けつけると、路上に座り込んだ女性と、女性を取り囲む男が二人。
女性の衣服が破れていた。
「どうしましたか」
恭介が軽く声をかけると、二人の男はぎょっとして振り向いた。
「#$%&☆!!!」
一人の男が怒鳴ったが、意味は分からなかった。
ただ、友好的でない表現であることは、恭介も理解した。
怒鳴った男が、恭介に向かって殴りかかってくる。
半袖のアロハシャツから伸びた腕には、何かの入れ墨が見て取れた。
男の繰り出すパンチが、スローモーションのように恭介には感じられた。
顔面を横にずらして男の拳をよけ、同時に恭介は男の鳩尾に正拳を入れた。
あくまで軽く突いたつもりであった。
だが、男は数メートル吹っ飛び、蹲った。
もう一人の男が、怒鳴りながら走ってくる。
手には何かの武器持っており、恭介の体躯へ突き立てようとする。
刃の太いナイフだな、と恭介は冷静に観察しながら、左足で男の顎を蹴り上げた。
蹴られた男は仰向けのまま倒れ、持っていたナイフは地面に刺さった。
恭介は女性のもとに歩み寄った。
「大丈夫ですか」
女性は小さく頷きながら、乱れた衣服を整えた。
浅黒い肌に、のびやかな四肢。
「お宅まで送りましょうか。…それとも交番へ行きますか?」
女性は顔を横に振る。
「ここには交番ありません」
普通に日本語だったので、恭介も少し安心した。
良かった、やはり、ここは日本だった。
「というか、ここに住んでいるのは、私と祖父だけだから」
そう言ってから、女性ははっとした表情になる。
そして、しげしげと恭介の姿をみつめ、尋ねてきた。
「あなた、誰? 今泳いできたの? この島に、何しに来たの?」
大きな瞳が訝しんでいた。
恭介も質問したかった。
ここは、どこ?




