【第一部】絶望 三章 リライブ 3
イラストは霊亀のレイです。
ウバ クロネ様に描いていただきました。
3
言われた通り、恭介は水に飛び込んだ。
フェリーから突き落とされた時と、状況は違ったものの、水底は見えず、周りは暗い。
漂いながら、恭介の意識は遠のいていく。
長い夢を見ていたのか。
それとも今が夢なのか。
脳内に声が響く。
「汝は何者ぞ」
―俺は藤影恭介―
「何のためにここにいる」
―もう一度、生まれるためだ!―
恭介の周囲の水流が、激しさを増し、行先を特定する。
一点を目指し、水流は恭介を運びあげた。
どの位の時間が過ぎたのか分からなかった。
恭介が目を開いたら、夜の匂いがした。
遠くで波の音が聞こえる。
久しく見る機会のなかった月の光が、恭介を照らす。
地上に帰ってきたのか。
袖を抜けていく風は、ひんやりしている。
地面は湿った砂だった。
恭介は腕を真上に伸ばし、夜空を眺めた。
見えた星の位置から北半球だと推測する。
日本のマークをつけた飛行機が夜空を飛んでいる。
たしかリンは、
「地上に戻れても、日本に帰れるとは限らんのだ」
などと言っていた。地底とつながるスポットは、世界全域にあるのだと。
恭介はそれを聞いてあわてて、英語以外のいくつかの言語を覚えたが。
多分、ここは日本だ。
「そして、もう一つ」
あの時、リンは付け加えた。
「地上の時間と、ここ地底での時間は、流れが異なるのだ」
よって、地上に戻っても、家族や友人と、元通りの生活が送れるとは限らない、と。
昔話に出てくる浦島太郎は、恭介と同じような迷い人だったそうだ。
今は一体、何年なのだろう。
周囲には、コンビニも交番も見当たらない。
舗装されていない、暗く細い小路を恭介は歩き始めた。
道の両脇には、背丈の高い草が生えている。
雑草の隙間から、人家の灯りのようなものが見える。まずは、そこを目指すことにした。
「きゃああああ!」
後方から、女性の悲鳴が聞こえた。
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