表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【本編完結】異世界から戻ったので、とりあえず復讐します~少年が大人になる通過儀礼~  作者: 高取和生@コミック1巻発売中
外伝

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

243/243

外伝 侑太

侑太がなぜ、瑠香と結婚したのか。

 母の香弥子が、侑太に何度も言って聞かせていたことがある。


「新堂が持つ『蟲使い』の力は強い。でも、逆らってはいけない一族がいるわ」


 香弥子はいつものように、濡れた唇を侑太に近づける。

 思春期を迎える頃、侑太はその唇が、恐ろしく、同時になんとも言えない気色悪さを感じていた。


「一族って、何それ?」


 香弥子は唇を薬指で撫でる。


「姓と言ってもいいかしら。まず『宇部』と言う人がいたら、逆らってはダメよ。うちの本家だから」


 本家とか分家とか、侑太にとっては面倒な話である。

 子どもの頃から母を絶対視し、服従している侑太であるが、時折ふっと冷静になる瞬間がある。

 その一瞬だけ、母を突き放したい衝動に駆られるのだ。


「何よりも、絶対気を付けて欲しいのが、『秦』という名字。いまは『畑』とか『畑野』とか、そんな名前に変わっているかもしれないけれど」


 侑太は、おとぎ話程度に、ずっと聞き流していた。

 彼女に会うまでは。



◇◇◇


 侑太が初めて彼女を見たのは、高校の入学式だった。

 新入生代表として、壇上から挨拶をした時、同じ新入生の男子が、真正面から侑太を見ていた。

 

 嫌な目付きだった。

 薄汚れた自分を、見透かしているような視線。

 そいつが入学式に同行していた女性は、母親というには若い雰囲気だった。


 姉か?


 黒い式服と結い上げた髪の女性は、整った顔立ちをしていた。

 この頃は、イイ女と見れば、手練手管でモノにする侑太であったが、この女性に対してはそんな気分になれなかった。

 むしろ瞬間感じたのは、畏怖だ。


 あとで、入学式に来ていた、新入生の保護者名簿を教師に見せて貰った。

 その名は、「畑野 瑠香」。

 侑太はゾクっとした。


 関わらないようにしようと思った。

 だが、否応なしに、侑太の前に瑠香は何度も現れた。


 そして。


 諸悪の根源のようだった香弥子に、畑野瑠香は引導を渡したのである。


 畑野瑠香が憎いか?


 とんでもない。


 侑太は心底ほっとしたのだ。


◇◇◇


 いくつもの危機と謎解きを経て、侑太は瑠香と婚約した。

 婚約はしたものの、手は出せない。出したくないわけじゃない。

 本家の血を引き、畑野の籍を持つ年上の女性だからなのか。


 悶々とした日々が続いていた頃、瑠香がかつて住んでいた、離島に行くことになった。

 長らくライバル関係だった、従弟の恭介による招待旅行である。

 島の宿泊場所は、恭介が手掛けたリゾート施設だ。


「俺、瑠香さんと同室?」


 婚約者だからいいだろう、そう恭介は笑った。

 侑太は笑えないどころか、冷や汗が出た。

 一緒に行った小沼悠斗には、真顔で囁かれた。


「まさか、まだヤッてないのか?」


◇◇◇


 その晩、瑠香はベッドの上に座り、侑太を待っていた。

 薄地の寝間着は彼女の体のラインを浮かび上がらせ、淡い色の照明が、瑠香の肌の白さを際立たせる。

 思わず抱きしめる侑太に、瑠香は言った。


「ごめん。政略結婚みたいで。こんな年上の女押し付けられて」

「違う! 違う! 違うんだ、瑠香さん! 俺は、俺は……」


 その先は言葉にならず、侑太は瑠香にキスをした。

 女慣れしているはずの侑太にしては、下手くそなキスだった。


 初めて見た時からだ。

 俺は、あなたに惚れていた。


 カーテンの隙間から、東雲の空が見える。

 寝息を立てている瑠香の肩を抱きながら、侑太は小声で呟いた。


「一生かけて、あなたを守ります」

 



 



 



 


ここまでお読みくださいまして、誠にありがとうございます。

誤字報告、助かっております。

次回の外伝は、主人公の話です。

少しでも興味を持たれましたら、☆を押してくださいますと、大変ありがたいです。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ