【第六部】暁光 最終章 始まりの地 7
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期末試験が終わり、語学研修に出発するまでの間、父から得た情報を基に、恭介は自分なりの結論を出す。
次にこの国が狙われるとしたら、おそらく三年から五年の後。
それまでに、万全の対策を取る。
そのためには、恭介も能力をつけなければならない。
語学研修に向かう、狩野学園高等部の二年生たちは、午後、成田を出発した。
ケネディ空港まで十四時間と少し。
座席でアイマスクを着け、恭介は、侑太と瑠香との会話を反芻する。
一週間ほど前のこと。
「瑠香さんと会うなら、まず侑太に了承とれよ」
悠斗から釘を刺された。
「え、何で?」
「カレカノでも、勝手に異性の友人にあったりするのって、ご法度だ。ましてや二人は婚約者だろ」
そういうものなのか。
よく分からないが、恭介は悠斗の言うとおりにした。
侑太と瑠香の前で、米国の薬品会社でも、脳に寄生する虫の研究が行われていると話した。
そして、いずれそれが、日本の脅威になる可能性があることを。
侑太は、母、香弥子が独身時代、しばしばアメリカに滞在していたと聞いていた。
瑠香は、拘束された時の仙波の話ぶりから、背後に何らかの組織がついているだろうと、推測はしていた。
「でも、すぐに日本をどうこうするとは、考えられないわ」
「瑠香さん、その根拠は?」
「たとえば新薬一つを創り出すために、少なくとも十年くらいの時間が必要。データが揃うまで、十年とは言わないけど、数年はかかるはず。
もう一つは、首都圏に虫が大量に発生した記憶が強く残っているうちは、同じ手を使わないでしょう」
恭介も同意見だった。
「そういえば、香弥子、星の巡りがどうしたこうした、よく言ってたよ。日本にとっての厄年みたいな時期に、仕掛けてくるかもな」
少し眠っていたようだ。
咽喉の渇きで目が覚めた恭介は、アイマスクを外す。
今、何時だろう。
恭介がミネラルウォーターを持った瞬間だった。
エレベーターが急降下する感覚に襲われる。
手に持ったボトルから、噴水のように水が垂直に吹く。
あちこちで、叫び声があがる。
機内放送が英語と日本語で繰り返され、客室乗務員が動き廻る。
だが、乗客の興奮と不安は治まらない。
晴天乱気流ということだ。
機体は上下変動を何回も繰り返す。
「船から落ちたら、次は飛行機か」
ため息と一緒に、そんなセリフを恭介は吐く。
乱れているとはいえ、気流とは空気の流れ。すなわち風と同意。
恭介の身の内には、風と雷を操る能力が残っている。
恭介は再び、アイマスクを着け、精神を集中した。
五分後。
乱気流を抜けたという放送が流れる。
恭介も安堵すると共に、精神を集中していた時に、脳裏に飛び込んで来た、聖獣の科白を思い出す。
――ひとりで何でもやることが、大人ではないぞ。
――頼れる人、頼れる物、それらを使いこなしてこそ、一人前じゃ。
安定した飛行で、機体は東へと向かう。
暁光が当たった機体は、白銀色に輝いた。




