【第六部】暁光 最終章 始まりの地 4
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その後、一同はゲストハウスに戻った。
「おい、恭介」
ゲストハウスのラウンジで、侑太が恭介に小声で呼びかける。
「俺と瑠香さん、同じ部屋なんだが」
「婚約者同士だろ? 何かまずいのか?」
「まずいなんてもんじゃない! やばいんだよ!」
意味が分からず、キョトンとした表情の恭介に代わり、悠斗が話を継ぐ。
「出したい手を出せない、理性と本能のせめぎ合いがヤバイ、だろ?」
「もういい!」
真っ赤になった侑太は、割り振られた部屋に向かった。
恭介と悠斗は、ラウンジから一番近い、一階の部屋でベッドに横になる。
身体は疲労しているが、頭の一部が固まっていて、深夜だというのに二人とも目が冴えている。
「なあ、キョウ」
「ここ、全館禁煙にしてるから、タバコならベランダな」
「いや、そうじゃなくて。ああ、でも、そうするか」
悠斗がベランダで煙を吐き出す。
あとから出てきた恭介が、口を開く。
「星空」
流星群のピークは過ぎたが、近隣の灯がないこの場所からは、銀河系が流れるかのように見える。
「綺麗だな」
悠斗はタバコを消す。
更に闇は深まる。
悠斗は思い出したように、恭介に尋ねる。
「あのさ、さっきお前、言ってたじゃん。
この島とかって、不測の事態が起こった時の避難場所だって」
「うん」
「お前が想定してる『不測の事態』って、まさか、ゾンビ発生とか言わないよな」
恭介はギクッとした顔をする。幸い、濃い暗闇が表情は消していたが。
「なんで、そう思うの?」
「いや、ガキの頃、ウチでゾンビが出てくるゲームやってて、キョウ、震えながら言ってたから。
もしも都内でゾンビが出たら、島に避難するって」
恭介はむせた。
タバコの煙がうっすらと、残っていたからではない。
そんなところは昔と変わっていない。
悠斗は少し安堵する。
危機管理とか言っていたが、発想の原点は意外に幼いままだ。
「ゾンビよりさ、不測の天災、南海トラフとか、火山の噴火とか、そっちの方が現実的じゃね?」
「うん。そう、だな」
標高の高い土地の、買収も進めている恭介であったが、まだ悠斗には言わない。
言ったら、昔一緒に見た、漫画のあれこれを突っ込まれそうだから。
闇が徐々に色を落とす。
間もなく、夜が明ける。
季節の巡りには、加速度がつく。
花はほころび、そして散り、若葉の照り返しが眩しさを増した頃。
高校二年生になった恭介たちには、夏休みに海外語学研修が控えていた。
「うおおお! 海外! しかもアメリカ! 俺、チョー楽しみ!」
語学研修説明会の会場で、白井のテンションは高い。
だが、イマイチ浮かない顔の恭介を見て、心配そうな顔になる。
「どうした? 体調でも悪いか? キョウ」
「えっ、ああ大丈夫。俺、語学研修って、良い思い出ないから」
恭介の過去を思い出し、白井は素直に謝る。
「そうだったな。ゴメン! 俺、はしゃいじゃって」
「大丈夫だろ、今回、キョウは俺と、一緒のグループだし」
後ろに座った悠斗が笑う。
「それに、アイツは少しだけ、まともになったからな」
アイツと言われた侑太は、司会進行役で、説明会場の壇上に上がっていた。
「ニューヨークから始まる語学研修ですが、ペンシルベニア州では、現地の高校生と触れ合います」
ペンシルベニア。
その地名に何かがひっかかる、恭介だった。




