【第六部】暁光 最終章 始まりの地 3
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恭介は改めて、四体の聖獣に頭を下げた。
「現実の世界に戻り、生き直すことができました。本当に、ありがとうございました」
リンが恭介に問う。
「復讐は、叶ったのか?」
「復讐ですか。とりあえず、といったところでしょう。
とりあえずの復讐でも、俺は納得しました。これ以上、過去にこだわる気持ちはないです」
侑太も頭を下げる。
「人の道を大きく外れて生きていた俺が、他人のために、何かをする気になった。
感謝してますよ、俺、恭介に。きっと他の連中も」
リンもメイロンもスズメも、頷いた。
恭介は話を続ける。
「それで、地底で得た、五行を操る力ですが
本日、お返しいたします」
レイが、つぶっていた目を片方開ける。
「ほう、それはまた、何故に」
「出来る限り、現実の知識と方法で、対処したいのです」
リンが恭介に訊く。
「出来ない場合は、どうするのだ?」
「そもそも、そんな危機的状況に陥らないよう、事前に察知し回避する。
俺が今、一番やりたいことは、危機管理です。
この島の開発も、本土で突発的な人災や自然災害が起こった時の、避難場所にしたいからです。
首都圏からは遠いので、伊豆諸島近辺の無人島を、もう一つ、同じように手を加える予定です」
亜由美はしみじみと、息子の顔を見る。
いつの間に、こんな大人びたことを、考えるようになったのだろう。
思考回路も、父親によく似てきた。
確かに似た者同士。
だから、創介は排除したかったのだろうか。
息子をライバルだと感じて。
「ならば、お前の五つの能力のうち、四つは回収しよう。
ひとつだけ、その身に残しておくがよい。差し迫った危機的状況というものが、ないわけではないだろう。
一つ残すとしたら、何が良いか?」
レイが恭介に尋ねる。
「確かに、蟲の大量発生の時は、あまり時間がなかったですね。皆さんに、動いていただけなかったら、被害はあのくらいでは済まなかったでしょう。
わかりました。
では、木気だけ残してください」
木気。
その属性は、雷と風。
リンが片手を上げると、恭介の体から、赤と黄色、黒と白の四種類の玉が浮かび上がり、くるくると回りながらレイの目に吸い込まれた。
「さてキヨスケ。我らはもう帰るぞ。
次代の我らの依り代たちを連れてな」
リンの言葉に、景之、聖子、そして柏内が、それぞれの聖獣に重なり、その身の内に吸い込まれていく。
「パパ! 私、元気だから。
元気に自分の家族、作るから!」
瑠香が叫んだ。
瑠香の手を、侑太が固く握る。
「おばあさん! あなたに会えて、俺は嬉しかった。
きっと
きっと父も、藤影創介も、嬉しかったはず」
恭介の言葉に、平野聖子は、ふわりと微笑みを残した。
「来世があるなら、また会おう。また一緒に戦おう!」
健次郎は、柏内にそう言った。
柏内は目を閉じたまま、拳を突き出した。
四体の聖獣が、朧に包まれ始めた時、レイが亜由美に視線を向けた。
「我ら、お前のことも、心配しておった。
我らだけではない。
海の底の女王も、だ」
「大丈夫です、そうお伝えくださいね。
気難しい夫と、優しい息子に出会えて、私は幸せです、と」
亜由美の答えに満足したのか、レイの眼の光が細くなり、すぐに流星の軌跡となった。
ろうそくは燃え尽き、静寂な闇が広がった。
聖獣たちが消えてから、恭介は、聞きたかったことを一つ、忘れていたことに気付く。
仙波の妹、壬生千波は、この池で消えて、何処に去ったのかを。




