【第六部】暁光 最終章 始まりの地 2
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ふたご座流星群が、無数に飛び交う夜空。
聞こえてくるのは、わずかな波の音と、木の葉が触れ合う音くらいである。
ろうそくの灯は細く、風にあわせて揺れている。
その場に居合わせた六人に、時間の感覚が薄れたその時。
六本のろうそくの火が、一メートル近く立ち昇った。
地上の物理法則など、全く気にも止めないように、六体の火は屈曲し、池の中心に集まり、合体した。
誰かが息を飲む。
合体した炎は池の上で、高く青く燃える。
そのまま炎は渦を巻き、球体となり宙に浮かぶ。
球体の炎が飴細工の様に伸び、その先端から現れる者たち。
それは、かつて恭介を救い、育てた人外の聖獣。
関東が虫と蟲使いに襲われた時、切り札として現れた存在。
リン
スズメ
メイロン
最後に池から目だけを見せる、レイ。
「ああああ!」
静寂を破り、侑太だけは声を上げ、レイを指さした。
あの夏の日。
水底に落ちた侑太を、救ってくれた者。
「お前が死ぬと、キヨスケが泣く」と言って、命の代わりに、侑太の眼球を一つ、取り上げた者たち。
あの時の、ウサギと亀だ。
「息災で何より」
大亀、レイの意思は、その場の全員に届く。
「これ、頭が高いのだ、童ども」
ぴょんと池の水面に降り立ったリンが、偉そうに髭を梳く。
あわてて六人は、畔に膝をつく。
「固いこと言うなよ、リン。レイ様、目をつぶったぞ」
リンのあとからメイロンが現れた。
空中で胡坐をかいている。
バサバサと羽ばたく音と共に、畔に降りたのはスズメである。
スズメは亜由美を見つけると、その翼で抱きしめた。
「して、何用であるか、キヨスケ」
リンが両耳をピンと立てる。
「お礼と、報告をしたかったのです。関わった人たちの前で。
あと、代替わりする人への挨拶も」
「そうか」
リンはパチンと指を鳴らす。
すると、いまだ燃えている炎から、四体の聖獣たちよりも淡い光をまとい、現れる人形。
畑野景之
平野聖子
そして柏内。
「ああっ!」
今度は瑠香が声を上げ、そのまま景之に抱きついた。
「パパ! パパ!」
瑠香はぼろぼろ涙を流す。
「あのね、あのね、言いたかったこと、一杯あったの。
あのね、瑠香、結婚するの。結婚相手、見つかったの!」
瑠香の叫びに近い声を聞き、侑太の目にも涙が浮かんだ。
景之はゆっくり、瑠香の背中を撫でる。
「うんうん。知ってるよ、パパ何でもしっている。
ごめんね。瑠香たん、ごめん。
勝手にこっちの世界に来ちゃって。
ホントは、瑠香たんの花嫁さん、パパ見たかったよ」
柏内は畑野健次郎に向かって、頭を下げた。
「ごめん、健ちゃん。約束、果たせなかったわ。
晩年、本当は一緒に暮らすつもりだったの、あなたと」
健次郎は微笑む。
「いいさ。今世の縁はそこまでってことだろ」
平野聖子は恭介と亜由美に立つ。
「創介と、分かりあえたかしら?」
恭介は、くすっと笑い、聖子に答えた。
「どうでしょう。似た者同士、ということは分かりましたけど」
「どの辺が?」
「せっかちで、負けず嫌い」
聖子は笑った。
亜由美も、亜由美の側にいるスズメも、小鳥の様に笑った。
「さてキヨスケ。時の流れは地上では有限。
報告があるなら、早くするのだ」
この夜の、ふたご座流星群の煌めくピークは、間もなく終了する。




