【第六部】暁光 二章 清算 10
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その年のクリスマス・イブ。
侑太と瑠香は、結納を交わした。
ただし、侑太の年齢が年齢なので、正式な婚姻は先送りになる。
結納に立ち会った畑野健次郎に、瑠香は口を尖らして文句を言った。
「何、この前近代的な儀式! このまま素直に結婚なんて、私、しないからね!」
「仕方ないだろ? 前近代的な家なんだよ、ウチは」
結納後の食事会には、藤影創介とその妻亜由美、さらに恭介も招かれた。
ぎこちないスーツ姿の侑太と、コスプレ姿より、何倍も輝く振袖を着た瑠香。
ああ、お似合いだな。
恭介は思った。
年明けに、瑠香は侑太の実家に移り住むという。
末席にいた恭介は、大人たちの席に、酒を注ぎに廻りながらそう聞いた。
「ああ、そういえば」
健次郎が恭介に声をかける。
「恭介君。島の開発、進んだか?」
創介は怪訝な表情になる。
「なんですか、島って」
「セッコク島だよ。藤影薬品から俺が買って、俺から藤影の坊ちゃんに、売ったのさ」
「何だって! 俺はなんにも聞いてないぞ」
創介は恭介に向かって目を見開く。
昔の恭介なら、その言葉と表情に気圧されて、ろくな返事も出来なかったろう。
「いや、俺も言ってませんし。契約は、畑野さんと、俺との問題ですから」
いたって軽やかに答える恭介に、創介はそれ以上、何も言えなかった。
ただ、亜由美にだけ聞こえる声でぶつぶつと呟く。
「島一つ買うなんて、普通、高校生がすることじゃないだろ」
「あら、誰かさんによく似た息子ですこと」
亜由美はころころと笑った。
「おかげさまで、宿泊設備だけは整いました。
島全体のリゾート化は、もう少しかかりそうですが」
恭介は瑠香にもワインを注いだ。
瑠香はぶすっとしながら、一気にグラスを空けた。
ああ、そうだと、恭介は付け加えた。
「年明けの七日に、俺、現地に行く予定です。
よかったら皆さんも、一緒に行きませんか?」
帰りがけ、恭介は侑太と一緒にトイレに入った。
「なあ」
侑太が用を足しながら、恭介に話しかける。
「俺が横から瑠香さん取っちゃって、悪かったな」
「ええっ? なんで?」
先に手洗いをしてる恭介が、訊く。
「いや、だってさ、ほら。
好きだったんじゃないか、お前も」
恭介は笑いながら答える。
「好きかって聞かれたら、好きだけど。
俺にとっては、お姉さんみたいな女性だ」
「悠斗も?」
「うん。悠斗、言ってたよ。侑太は変態でキチクだけど、多分瑠香さんが真の初恋の人だろうって」
「変態とかキチクとか、ひどい言われようだな」
「マジで惚れた相手なら、侑太は絶対大切にするだろうから、任せても安心だって」
「そうか」
侑太は顔を赤くしていた。
「侑太も、一緒に行こうよ、セッコク島。瑠香さんの故郷だし」
その頃。
白井と綿貫は、テーマパークから帰宅する途中だった。
「本当は、もっと遅くまでいたいけど、綿貫さんのお家の人、心配するでしょう」
綿貫は笑顔で頷き、白井の手を握った。
「来年、また来ようね」
「うん!」
高校生たちの頭上に、冬の星座が広がり始めた。




