【第一部】絶望 三章 リライブ 1
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スフィンクスの殺気を察知し、恭介が体勢を低くした瞬間、爆風とともにスフィンクスは炎を吐いた。
瞬時に恭介は掌から水を放出し、全身を包む。
炎と水はぶつかり合い、轟音と水蒸気が洞窟を満たす。
スフィンクスは翼を広げ、無数の岩石を恭介に投げつける。
「お守りです」とスズメから渡された小枝を、恭介は握りしめる。
小枝から、さらに細い蔓が何本も伸び、次々と岩石を粉砕する。
スフィンクスは手を振り上げ、爪をむき出しにする。
爪は鋼鉄のように鈍く光り、恭介をからだごと引き裂こうとする。
恭介は一歩早く、スフィンクスに向かって駆け出している。
スフィンクスの爪がかすめた腕から、血が滴る。
「決意なんて、生易しいもんじゃない!」
恭介は叫びながら、体の奥底の熱を両手に集めた。
「俺は」
恭介の両手が熱を帯び始める。
「俺がこの世に存在する証を」
恭介の両手は真紅となる。
「掴む!」
恭介の両の掌は、発火した。
思いのたけをぶつけるように、恭介は両手の炎をスフィンクスに投げつけた。
二つ三つと起こる爆発音。その中に、獣の悲鳴も混じっていた。
煙幕におおわれた洞窟に、光が差し込んできた。
煙の向こう側は出口になっているようだ。
爆発に巻き込まれた恭介は、しばし意識を失っていた。
上半身を起こすと、足の先に何かが動いた。
ゴロゴロと聞こえる音。柔らかい毛の感触。
猫?
左右の瞳の色が違う、ほっそりとした黒猫。
どこかで見たような猫だった。
「五行の相性と相剋、ものにしたようだな」
黒猫が喋っているのか。
「無事に、試練を越えた褒美をしんぜよう」
黒猫は踵を返し、出口へ向かう。
「そうそう、忘れてた」
黒猫は首だけ恭介の方を向き、小さく鳴いた。
「ハルトを、助けてにゃ」
―えっ? 何? ハルトって、悠斗? 君はひょっとして
聞き返そうにも黒猫の姿はなく、地面には人間の拳くらいの輝く石が二つ。
透き通った青い石と、炎のような真っ赤な石。
それを拾って恭介も、出口に向かった。




