【第六部】暁光 二章 清算 7
7
恭介が島内に語った概要は、二日後の十六時に、週刊誌の電子版に掲載された。
「現代の浦島太郎か! 行方不明だった御曹司発見!」
海に落ちた少年(当時十歳)は、近くを通りかかった他国の船に拾われ、その後、大隅半島付近の島で、生活していた。
事故のショックで記憶が欠落していたが、最近、ようやく記憶が整い、元の生活に戻った。
簡潔に記事をまとめると、このようになる。
全くの出鱈目でもない。
そして、藤影の名前こそ出てはいないが、「先の虫襲来時、地域に貢献した薬品会社」という一文を、島内は加えてくれた。
記事掲載後、藤影本社には取材依頼と電話が殺到する。
狩野学園も、当然同じ現象に見舞われ、理事長の亜由美を始め、職員は対応に忙殺された。
恭介は、記事が掲載される数時間前に、校内のオンラインシステムを使い、全校生徒に向かって、記事と同じ内容を話した。
休み時間になると、恭介の教室には、小学部から上がって来た生徒らが、大挙してやって来た。
そのうちの半分くらいの生徒からは
「なんとなく、そうかなあと、前々から思っていた」
そう言われた。
少し遅れて来た侑太が、満面の笑顔で恭介と握手をする。
「SNSに流すなら、この写真を使えよ」
「いや、流すな」
悠斗が侑太を小突いた。
騒然とする学園から早々に抜け出し、恭介と悠斗は住まいに戻った。
「あれで良かったのか、キョウ」
「うん。戸籍も元に戻ることだし、島内さんの業績にもなるし」
「島内さん、キョウの親父さんと会ったんだろ?」
「会ってもらってよかった。二人とも、すっきりした表情になったし」
「キョウは親父さんと、話できたのか?」
「そう、だな。釣りしてたよ、夜釣り」
藤影創介に、盗聴器が仕掛けられていたことや、創介の前でうっかり泣いたことは、さすがに悠斗にも言えなかった。
創介は島内と会った後、すぐに自宅へ戻った。
盗聴器を仕掛けたのは、創介に、退陣要求を出している幹部の一人が、潜り込ませた女性である。
創介は何の咎めをすることなく、女性を解放した。
それは亜由美の要望でもあった。
それどころか、ひと月分の給与の倍額を、女性に渡したのである。
不満そうな侑太に、創介は言った。
「シングルで子ども二人。介護が必要な親も、抱えている女性だ。
適当な金をちらつかされて、いやいや引き受けたのだろう。
問い詰めることも、追い詰めることも必要ない」
侑太は内心驚いた。
末端の使用人の細かい状況まで、創介は把握している。
トップに立つ人間は、やはり凡人とは違うのだ。
「ところで侑太。お前、昨日から女性と一緒に、ウチに来ているそうだな」
創介は笑っている。
その顔を見た侑太は、さらに驚く。
こんなに
明るい笑顔が、出来る男だったのか、藤影創介は。
「えっ! あっ! はい」
「真っ当な彼女か?」
「はい。俺の、婚約者です!」
侑太の顔は真っ赤になった。
創介は、声をあげて笑った。




