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【本編完結】異世界から戻ったので、とりあえず復讐します~少年が大人になる通過儀礼~  作者: 高取和生@コミック1巻発売中
第六部

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【第六部】暁光 二章 清算 6


翌朝。


恭介は、父にスーツを渡され、ネクタイも絞めた。


「会う場所が場所だからな」

そういう創介は、光沢のない生地の、黒いスーツを着用した。


霊園の手前の花屋で、創介は花を買う。


「いつものですね」

花屋の主人は愛想よく、束を作った。


創介は広い霊園をスタスタと進む。

恭介は小走りに、父の背中を追った。


その墓所の前、島内は線香をあげていた。

気配に顔を上げた島内は、創介を認め、会釈する。


創介が手に持つ花を見た島内は、小声で「ああ」と言った。


「あなただったんですね。藤影さん」


創介はそれには答えず、深々と頭を下げた。


「それに、君はやはり、ご子息だったんだね。

初めて会った時に、似ていると思ったが」


恭介も父に倣って頭を下げる。


「島内さん。こんな形でお詫びを申し上げること、お許しいただきたい」


島内はゆっくりと首を振る。


「お詫びなら、とっくにいただいてますよ。

莫大な補償金も」


「いや、弊社の対応が十分だったとは思っていません。

私個人の対応も、です」


恭介が、うかつに口をはさむことも出来ない、大人同士の会話だった。

だが、わざわざ恭介がセッティングをしたのは、互いにお辞儀をさせるためではない。


「ご多忙のところ恐れ入ります。

島内さん、改めまして、藤影創介の息子、恭介です。

島内さんが、かねがね疑念を持たれていたことを、直接父に訊いて欲しくて、お時間いただきました」


島内は、頷いた。

何か吹っ切れたように、取材口調で創介に向かう。


「それでは、まず、お聞きしたいのは、藤影さん、あなたのご子息、無事でいらしたんですね。巷では、いろいろ憶測が飛んでましたが」

「お陰様で」


「謀殺というのは本当ですか?」


島内と創介は、静かに互いを見つめる。


「いえ、あれは事故です」

恭介がきっぱりと答えた。


「俺が船から落ちて、起こった事故です。

運よく助かったのですが、ショックでしばらく記憶を失くしていました」


島内は、口元だけ笑った。


「わかりました。そういうことに、しておきましょう。

それと、もう一つ。

壬生千波さん、ご遺体は見つかりましたか?」


創介はわずかに目を閉じ、そして開いた。


「結局、見つからなかったです」


やはり

千波は行方不明のままか。


「わかりました。十分です」


そう、島内は十分納得したのだ。


せんだっての首都圏を襲った謎の虫の大群に、創介と藤影薬品が果たした役割は大きかった。

藤影薬品は、地域の多様なステークホルダーの利害に配慮し、予期できぬようなリスク管理に奮闘した。

企業の社会的責任、いわゆるCSRを十分に果たしたと言えるだろう。


島内程度のライターが、藤影を叩く記事を書いたところで、黙殺されるだけである。


何よりも


創介が弟の墓前に手向けた花は、派手過ぎない蘭。


島内の弟が、生前好きだと言っていた花である。

もう何年もの間、時折、墓前に捧げられていた。


もしかしたら


行方不明と言われる千波が、そっと置いてくれているのか。

そうであれば、弟も報われる。

島内はそんな夢想をした。


だが

藤影社長が供えてくれていたのなら、弟は、きっともっと報われている。


「では島内さん、俺からお願いがあります」

「何でしょう?」


「俺が海難事故から奇跡的に生還したことを、島内さんの手で記事にしてください。

独占取材です。多少の誇張記事になっても構いません。島内さんから、週刊誌に売って欲しい。

できれば今日中に」


島内は勿論、創介もぎょっとした表情になる。


「お前、何を」

「藤影の総会は金曜日でしたね。電子版なら、間に合うでしょう」


藤影創介退任とその後を畑野健次郎が狙っているという噂は、業界内外で、実しやかに囁かれている。


それを、この息子は今、ひっくり返そうというのか。

自分のプライバシーを、曝け出すようなことをしてでも。


以前にも感じたことではあるが、末恐ろしい高校生である。

それもまた、藤影の血か。


「いいでしょう、恭介君。

その代わり、もう少し、詳しく話を聞かせてください」


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