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【本編完結】異世界から戻ったので、とりあえず復讐します~少年が大人になる通過儀礼~  作者: 高取和生@コミック1巻発売中
第六部

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【第六部】暁光 二章 清算 4


刮目せよ!


創介の脳裏に響いた言葉。


たった三日、会わなかっただけでも、男子は驚くべき成長を遂げるという古事がある。


恭介が行方不明になって五年。

その間に、弱く未熟だった息子は、父に肩を並べるほどの能力を得たというのか。


泣き顔は

昔のままなのに。


「俺は、畑野さんに手ほどきを受け、資金を貯め、資産を増やしました。

あなたに勝って、あなたの会社を乗っ取るつもりだった。

それが

俺の復讐だった」


息子は、何を言っているのだろう。

藤影を乗っ取る?

どれくらいの金が必要か、分かっているのか。


「藤影の株も、十パーセントくらい取得しました。

でも、まだ足りない。

どうするか。

そんな時、ある政府筋の人から諭されました」


ウチの株の一割だと?

いくら注ぎ込んだ? お前。


それに、政府筋って何だ。

そういえば、厚労省の役人、恭介が戻って来てるって、知ってたな。


「日本の国益のためには、藤影薬品の社長を交代させるわけには、いかないと」


恭介は、バインダーから論文を抜き、テーブルの上に置いた。


「国益とは、何を指すのか、俺も調べました。

俺に教えてくれた人は、あなたの専門は遺伝子変性と言ってましたが、

本当はこちらだったんですね」


恭介が置いた論文のタイトルには、「apoptosis」という単語が見える。


アポトーシス。

すなわち

細胞死。


「ある種の抗生物質は、がん細胞のアポトーシスを促進する。

つまり、がん細胞を死滅させる。


だが同時に、正常細胞のDNA損傷も起こすため、副作用が強い。

がん細胞のアポトーシスだけを起こす、薬剤の開発は急務である。


俺が読めたのは、ここまでです」


「二十年以上も前の論文だ。俺がファーストで書いたやつだが。良く見つけたな」

創介はパラパラと論文を眺める。


「最近は、腫瘍の細胞死だけ起こすことが出来る、RNAが見つかった。

となれば、製薬会社の腕の見せ所だ。

日本人の二人に一人が、がんで死ぬ時代だし、転用できれば、がんの治療以外にも有効だ。

莫大な利益誘導につながる」


創介は、トレジャーハンターにも似たような、強い眼差しになる。

研究者としても、実業家としても、一流の男。


その瞳の輝きを見た恭介は、認めざるを得ない。


かなわない。

この父にはかなわない。

今の俺では、勝てない。


「だから、俺も、自分のちっぽけな復讐は止めました。

あなたを完全に許したというのと、ちょっと違いますけど」


恭介は自分のカバンから、別の書類を取り出し、創介に渡す。


「お前、これ」

「株式譲渡の書類です。全株数の約八パーセントあります。

総会、もうすぐですよね」


「なんだ、その八パーセントって。またえらい中途半端な数だな」

「俺も配当欲しいので」


父は笑った。

恭介も下を向いて小さく笑った。


初めて

父と子は、声を揃えて笑った。


「株のお礼に、欲しいものでも買ってやるぞ」


世間一般の父親のような発言をする創介。

恭介は思わず、父の顔を見る。


およそ

父に対しては、ワガママ言ったり、甘えたりは、したことがないのだ。


「じゃあ、お願いしたいのは二つ」

「言ってみろ」


「釣り。

一緒に釣りに行きたい」



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