表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【本編完結】異世界から戻ったので、とりあえず復讐します~少年が大人になる通過儀礼~  作者: 高取和生@コミック1巻発売中
第六部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

222/243

【第六部】暁光 二章 清算 1


藤影創介は、些か緊張していた。

それは四半期決算の総会が、近いからではない。


本日、息子である藤影恭介と、会うからである。


先だって、創介が重度の失血状態になった時、恭介の申し出により輸血が行われたという。


その直前、確かに創介は息子の顔を見た。

成長した恭介は、険しい表情をしていた。


彼は創介に、何かを言っていた。

虚ろな意識の中で、創介には聞き取れなかったのだが。


恨みごとか。

言われても仕方ない過去が、創介にはある。


自分を排除しようとした、父親への復讐か。

それはあるかもしれない。


しかし、ならば何故。

息子は俺を助けたのだ。


「今夜は帰らない」

家を出る前に、創介は妻の亜由美に告げた。


「親子水入らずで、ゆっくりしてきて下さいな」

亜由美は暢気にそんなことを言う。


だいたい、元々生まれ育った自宅に、息子はなぜ戻って来ない。


更に言えば。


生きて戻っていたのなら、もっと早い段階で、親元に挨拶しに来るべきだろう。


自分の思考が、理不尽なものと創介には分かっている。

恭介が、すぐに自宅に戻れない原因を作ったのは、間違いなく創介なのだ。


分かっているが、緊張のあまり、息子に対してというよりは、会社の部下に対するような思いを持ってしまう。

いや、今どき部下に対しても、理不尽な言動は慎んでいる。


何よりも。


高校生になった恭介に、何を話せば良いのだろう。

一晩一緒に、どう過ごせばいいのだ。


創介は、自分で車を運転して、湾岸に向かう。


そういえば。

恭介は、車に酔いやすかった。


あれは恭介が幼稚園に入る前だ。

創介が自家用車を運転し、親子三人で房総の海岸に行った。


その行き帰りとも、恭介は車中で嘔吐した。

創介とて、可哀そうにと思うものの、日頃十分に、幼児と触れ合ってはいない。

病気や怪我で泣く、子どもの対処は苦手だった。


――おい、なんとかしろ


亜由美に指示を出すのが精一杯。

思い返せば、冷たい父親だった。


マンションの駐車場に着いた。


創介が自分で指定した時間より、大分早い。

本でも読んで時間を潰すか。

亜由美が弁当と飲み物を創介に持たせていた。

せめて息子が成人年齢だったら、酒でも飲んで過ごせるだろうに。


創介は、ビジネスバッグと風呂敷包みを抱え、エレベーターに乗った。



約束の時間ぴったりに、恭介はスマホをかざしオートロックを解除した。

そのままエレベーターに乗り、20階で降りる。

エレベーターに付いているいる鏡に、恭介が写る。

小学生の時のような、蒼い顔をしていた。


部屋のドアをノックすると、内側からドアが開く。

恭介の額には、薄く汗が浮かんだ。


「入っていいぞ」


紛れもなく父の声。

言われた通り、恭介は部屋に入る。


白い壁と大きな窓が見えた。

ワンルームだが広い室内。


ラフな格好をしている創介は、先にソファーに座った。

恭介の記憶の中の父は、いつもスーツ姿だった。


「元気、だったか?」

父らしくもない質問だ。


元気でなければ、こんなところまで来ることはないだろうに。


「おかげさまで」


返す言葉も間が抜けていると、恭介は思う。


窓から射す夕陽の残り香のせいか、恭介には父の表情が、分からなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ