【第六部】暁光 一章 残務 8
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侑太と別れ、恭介は住まいに戻る。
侑太の語った内容は、畑野健次郎からの指示でもある。
国難を救うための、誓いと儀式が必要だという。
侑太と自分が、そんな使命を背負っているとは、俄かには信じられない。
だが
地底での生活そのものが、そもそもお伽噺。
蟲使いと、生死を決する闘いをしたなんて、出来の悪いラノベだ。
それよりも
もっと信じられないのは、あの侑太が、真面目に結婚を考えているという事実である。
しかも相手は、瑠香なのだ。
並みの男が口説けるような、女ではない。
恭介も瑠香を慕っているが、それは異性に対する恋愛感情とは別のもの。
肉親の情。母を想う気持ちに近い。
よって、幸せになって欲しいと恭介は切に思う。
侑太で
大丈夫なのか。
確かに侑太は優秀だ。
今回、蟲来襲の際、学園と避難してきた人々を守るための、侑太の指示や手配は適切だった。
人格も、昔と比べると、だいぶましになっている。
だからといって
全幅の信頼を侑太におけるだろうか。
それに
瑠香と侑太の結婚話が、悠斗の耳に入ったら。
間違いなく悠斗は、侑太を殴るだろう。
いや、それだけでは済むまい。
などと考えているうちに、最寄り駅に着いた。
まだ完全には癒えていない傷口を抱え、恭介は精神的にも疲労していた。
悠斗は、そんな恭介の体を心配してか、今夜も夕食を造りにやって来た。
「おばさん、心配してないか? 毎晩、悠斗が出かけること」
恭介が尋ねると、
「ああ、お袋、今、カレシと一緒だから」
悠斗はそう答えた。
隣室に灯が点いた。
瑠香も帰ってきたようだ。
「せっかくだから、瑠香さんも一緒に食べよう」
悠斗が誘った。
やってきて、そのまま床に体育座りをした瑠香が、上目使いに二人を見る。
「聞いたでしょ」
「何を?」
「侑太から聞いたんでしょ」
「ああ、結婚するって話か」
食後の片づけをしている悠斗が言った。
恭介は驚く。
「悠斗、知ってたの?」
「ああ、今日、侑太から聞いたから」
「お前、殴ったりしなかった?」
「え、なんで?」
てっきり、悠斗は逆上するだろうと思っていた恭介は、肩の力が抜けた。
亜由美は退勤後、創介の病室へ赴いた。
病室には、誰かが見舞いに来ていた。
どこかで会ったことがある風貌だが、誰だか亜由美は思い出せない。
「あなたが例の…今は創介の奥さんか」
軽く一礼して、男性は帰った。
後ろ姿を見送った亜由美は、ふいに記憶が蘇った。
あの時。
亜由美が湾岸の倉庫に監禁された時、助けてくれた人。
創介と一緒に、亜由美を救い出してくれた人だ。
「ねえ、創介さん、今の人って」
「畑野さん。昔からの知り合いだ。いろいろ教えてもらったから、まあ師匠みたいなもんだな」
健次郎が、藤影グループへ介入しようとしている件については、創介は口にしない。
今日、健次郎が見舞いに来たのも、別件だった。
「俺だけじゃなく、恭介も、世話になったみたいだ」
健次郎の別件とは、創介の息子、恭介のことである。




