表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【本編完結】異世界から戻ったので、とりあえず復讐します~少年が大人になる通過儀礼~  作者: 高取和生@コミック1巻発売中
第五部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

207/243

【第五部】縁  四章  残照 5


創介の元から飛び立ったトラフズクは、全身にまとわりつく蟲を弾きながら北上していた。


本来、蚊を始めとする昆虫類は、猛禽類の餌である。

しかし、それは自然があるべき姿の話。


人の生き血を啜り、悪意を受けて放たれた蟲は、自然の理を捻じ曲げて、大型鳥類をも襲う。


羽を傷めたトラフズクは、江戸川を越えるあたりで、力が尽きかけたいた。

ようやく太い幹の木を見つけ、羽を休めようと高度を落とすと、血糊で固まった鎖状のものに羽を削られ、地面に落ちた。


いや、落ちた先は地面ではなかった。

人の手の上だった。


「どうした、お前。ケガしてるのか?」


木の側で恭介の帰りを待っている、悠斗がトラフズクを抱いた。


悠斗はトラフズクの首にかかる、鞘を見る。

藤の文様が描かれていた。


「お前、これを付けてどこにいく? 羽はもう、ボロボロだぞ」


人間の言葉が分かるかのように、トラフズクは首を動かし彼方を見た。


猛禽の眼に浮かぶ、焦りと不安。

悠斗はなぜか、この鳥を運んで行こうと思った。

この時の決断がどうして生じたか、後になっても悠斗に分からなかったが。


「連れてってやるよ」


悠斗は乗ってきたオートバイに、キーを差し込んだ。



雲取山山中で、呪をあげていた畑野健次郎は、四極点の一角が崩れたのを感じた。


柏内か。


健次郎の脳裏に、若かりし頃の柏内が浮かぶ。

万感の想いが浮かんだその時、どこからか柏内の声が聞こえた。


――感傷に、浸っている場合じゃないでしょ、健ちゃん


それもそうだ。


苦笑して健次郎はまた、祓いの中に意識を戻すし、呪をあげる。


健次郎の口から、泡立つような血が零れる。

それは血を吐きながらも歌い続ける、鳥のようであった。



仙波と闘い続ける恭介は、自分の胸に鶏卵ほどの塊が出来ていることに気付いた。


先ほど、仙波が「卵を産みつけた」と言ったのは、嘘でも誇張でもなかった。

恭介の鼓動に合わせ、ドクドクと動く塊。

塊の出来た周囲の皮膚には、血管がミミズのように浮かび上がっている。


この塊が弾けたら

おそらく命とりであろう。

日没までと仙波は言った。


あと、三十分くらいだろうか。


その仙波は、大型のナイフを取り出し、自分の手首を傷つけた。

流れ出す血を地面に垂らす。


県境、埼玉の場所に。


「ふふふ、埼玉の術者に術を返した。

よって、二人目の術者もおしまいだな」


そう言いながら、仙波は恭介に切りかかる。

かろうじて、恭介は小刀で受け止める。


仙波の力は強い。

受け止めるだけで精一杯だ。


「宇部家に伝わる刀だな。

それ一本だけでは、私を倒すどころか、傷をつけることもできまい」


本来は、二本で一組の武器だと瑠香は言っていたそうだ。

いよいよここまでか。


まさに今、遠くの山脈やまなみに陽が落ちようとしていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ