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【本編完結】異世界から戻ったので、とりあえず復讐します~少年が大人になる通過儀礼~  作者: 高取和生@コミック1巻発売中
第五部

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【第五部】縁  四章  残照 4


マストの頂から、武内は空を見つめる。

長い顎髭が風になびく。


「ふむ。風速二メートル以上か。ならば、蚊は飛べなくなるはずだが。

壬生の呪いは、自然の摂理を越えるのか」


武内がぶつぶつと唱えると、東京湾の南方に稲妻がよぎる。

波は大きくうねり、魚が跳ねあがる。


「県境が邪気邪霊の入口であるのと同じく、国境もまた、国難の入口。

ここを動くわけにはいかん。

さすれば」


武内は近くを旋回するトラフズクを呼び寄せ、足先に何かを巻いた。


「間に合うことを、祈る」



出社した藤影創介は、先頭に立って指揮をしていた。

全社員に防虫着を配布し作業に当たらせた。


社内の診療所は勿論、グループ内の関連病院全てに、抗マラリア薬を配備。

合わせて、除虫剤とアドレナリン製剤を都内の避難所に配送。

物流が滞っている地域には、社用車を走らせた。


創介がひと息ついた頃、陽は西に傾いていた。


創介の傷口からは、微弱な出血が続いている。

咽喉が乾いて気持ちも悪い。


社長室に戻り、彼はサーバーから水を飲んだ。

重傷の体をおして、人々を虫から守るために奮闘しているのはなぜか。


贖罪?

いや、そんなつもりはない。

こんなことで償いは出来ない。


実の息子には。


息苦しくなり、窓を少し開けた。


開けたと同時に、大きな影が室内に飛び込んでくる。


鳥?


そのままサーバーの上に止まった鳥は、フクロウのようだった。

この種、夜行性ではないのか。


フクロウに似た鳥は、人の顔のような、ギョロッとした眼を創介に向ける。

頭部に耳のような羽があるので、これはミミズクか。

その足に、細い紙が巻いてある。

そっと近づいて、創介は紙を解いた。


紙を目にした創介は、慌てて机の引き出しを開ける。

袱紗に包まれたままの物。

創介は、ミミズクにそれを括り付けた。


――いますぐ、お渡しした小刀を坊ちゃんの息子へ


鳥を飛ばしたのは、武内だろう。

『坊ちゃんの息子』とは武内の言い方だ。


このミミズクが届けるというのか。

俺の息子、恭介へ。



狩野学園高等部の校舎三階。

校庭側のベランダに、以前、文化祭で使われた書割が出された。


伝説の聖獣、鳳凰、麒麟、応龍が描かれ、縁取りは亀甲模様。

描いたのは、綿貫、白井、そして恭介である。


その横にもう一枚。

綿貫が東京湾を眺めながら描いた、波と鱗と大きな海亀。


「こ、これで良いの?」

白井が綿貫に訊く。


「うん。これが必要だって思う」


校庭では相変わらず、牧江の動画が流れている。

避難テントから顔を出し、眺める人が増えている。

校舎の内外では、スマホで動画を追っている生徒たちの姿も多い。


上空は強い風が吹いて来た。


「この風なら、蚊は飛べないぞ」

戸賀崎が侑太らに語っていた。


空気が軽くなっていく。

そう白井は感じた。


見上げれば空は橙色。

夕焼けの始まりだ。


風に流されていく雲が一つ。

形が人の顔に変わる。


「ばあちゃん!」


雲の中の柏内は、にっこり微笑んだように見えた。



恭介は県境を何回も越え、仙波と刃を交わしていた。

交わしたというよりは、ただいたぶられているように感じる。

恭介の全身には傷が増え、血はだらだら流れる。


恭介の血を吸った仙波は、県境の真ん中で、指先を地面に突き立てた。

ぼこっという音と共に地面から掌を抜いた仙波は、にやりと笑う。


「一角を崩した」


仙波が指を突き刺した場所には、『群馬』の文字があった。



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