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【本編完結】異世界から戻ったので、とりあえず復讐します~少年が大人になる通過儀礼~  作者: 高取和生@コミック1巻発売中
第五部

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【第五部】縁  二章  突き抜けたその先 12

12


時は1970年6月。


雨が小屋の屋根を叩く。


その前日、日本と同盟国の、安全保障に関する条約の延長が決まった。


三人の若者が、小さな小屋に集まっていた。


女性が二人。男性が一人。


それぞれが別々の大学で、保障条約締結に反対する、学生運動を指揮していた者たち。

この小屋は、男性が在籍する大学に残っている、学生たちの拠点の一つだった。


学内から勝手に持ち込んだ、アルコールランプで湯を沸かし、男性はコーヒーを淹れた。


「終わったな」


男性がぽつりと言った。


「どうするの? これから」


一人の女性に聞かれた男性は、濁った水のようなコーヒーを嚥下する。


「研究に戻るさ。テーマは決まっている」

「そう。カッシーは?」


女性はもう一人の女性に尋ねる。


「唯物論はもういいわ。私は山に向かう。 あなたはどうするの? 聖子」


「次の世代の命を育てるわ」

そう言って、彼女は自分の腹をさすった。


「次の世代か。この国の困難性は、今より高いと思うがな」


他人事のように男性は言う。

彼の目には、これからの日本の有り様が、朧げに見えていた。


「そうね、そうかもしれない。でもね、だからこそ、私は見届けたいの。子どもたちの、そのまた子どもたちの、進んでいく姿」


子どもたちに残したい、豊かな自然。

争いのない世の中を作りたい。


そのための闘いだった。


今日は負けた。

同胞も命を落とした。


だが

遠い未来


自然が奪われ、失われる時が来るなら

この国を武器や理念だけで、守れない時が来るなら


その時こそ


「また、会いましょう」

「ええ、きっと」

「助力は可能だ」


若者たちは、別々の方向に歩き始める。


柏内は精神世界の修行へ。

平野聖子はシングルマザーとして子供との生活へ。

畑野健次郎は研究の世界へ。


それから五十年余り。


滅びの使者は、海外から来るとは限らない。

国の内部に巣食う膿が、火口から溢れようとしていた。


今度の闘いは、負けられない。


藤影創介の病室で、じっと息子を見つめ続けた聖子が、顔を上げた。


ベッドの対面にいる亜由美に、聖子は告げる。


「もう、行かなければなりません」


「えっ お義母さん、行くってどこへ? 深夜ですよ、今」


「創介に会えた。孫と話も出来た。ありがとう。亜由美さん」


滑るように聖子は病室を出て行く。


「ちょっ、ちょっと待ってお義母さん!」

「ううん。待っているのはお友達。創介は、きっと大丈夫」


慈愛に満ちた表情、というものだろうか。

抱きしめたくなるような笑顔を残し、聖子は去った。



聖子は車を借り、関越道を下る。

その車の轍を追うかの如く、一台のヘリが上空を飛んでいる。


ヘリには、畑野景之が同乗していた。



柏内は最大の容量を誇るYダムにいる。

聖子はFダム、景之はNダムに向かう。


景之の情報網で得た、攻撃される可能性が高い処は、その三つのダムのいずれか。


あるいは


三つ全部。


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