【第五部】縁 二章 突き抜けたその先 11
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亜由美から恭介に連絡が届いたのは、夜も更けた頃だった。
恭介と悠斗は、恭介の住まいに戻っていた。
侑太は、ゲストルームで瑠香に付き添うという。
白井も自宅に帰った。
病院から呼び出しがあれば、いつでも恭介は駆けつけるつもりでいた。
悠斗が二輪で送りつけると言ってきかないので、それに従った。
「創介さん、一命は取りとめたわ!」
ただし、依然、危篤状態ではあるということで、亜由美と聖子は病院で待機するそうだ。
通話を終了した恭介は、肩の力が抜け、思わず天井を見た。
下を向いたら、涙が落ちそうだった。
直接創介に会ったら、言いたいことは山ほどあった。
会った瞬間、創介の意識が消失したので、それは叶わなかった。
病院に一緒に行けと悠斗に言われても、恭介は素直に頷けなかった。
恭介の紙一枚のわだかまり。
若さという代替のシロモノ。
後悔
するだろうな
そうも思った。
悠斗は何も言わず、恭介にコーヒーを渡した。
恭介も無言で飲み干した。
頭がクリアになってきた恭介に、どうにも気になる白井の言葉がある。
――ばあちゃん、今、群馬の山奥にいるって。なんとかダムの辺り
あの柏内が、目的なしに行く場所とは思えない。
思いつくままに検索すると、出来上がったばかりの、ダムの写真が目についた。
ダムの水量は、九千万立方メートル。
満水時の標高は、六百メートル。
数字だけでは、大きさの想像がつかない。
だが
このダムが決壊したら、関東全域に、甚大な被害が生じるであろうことは、容易に想像できる。
そんな場所に、柏内がいるということは。
恭介は、決壊したダムから溢れた濁流と、その後から湧き上がる、蟲の大群が垣間見えた。
瑠香が目覚めた時、傍らには侑太がいた。
「今日は何日? 今、何時?」
侑太は講演会が終了した夜であることを、瑠香に伝えた。
瑠香の枕元に残る、微量の香り。
畑野景之が好んで使うコロンと同じ。
「パパは? パパが来たでしょ?」
「先ほど、出立されました」
「何処へ!」
「山、とだけ」
瑠香はベッドから飛び出そうとして、侑太に止められる。
「無理です、瑠香様。もう少しお休みしてください」
瑠香は気付いていた。
仙波の元から助け出されたが、瑠香の脳内は蠢くものたちで侵食されていた。
仙波の操り人形になりかかっていたのだ。
助け出した景之が、瑠香の身の厄を祓ったのである。
おそらく
景之の身を、その生命を、大幅に削って。
山に行って何をするというのだ。
景之では、仙波の命脈を絶つことはできないはず。
だがきっと、景之はその身を投げ出す。
何かのために、彼は最後の生命力を使うのである。




